こんにちは。まだ夏前なのに、半袖のTシャツだけで充分な日が多いなと思っています。
5月28日におこなわれました、「芸術表象論特講」6回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストの飯嶋桃代さんでした。
飯嶋さんは、本学の出身です。立体アート学科を卒業後に修士課程を経て博士課程立体芸術研究分野を修了されました。現在は、立体アート専攻の助手をされています。
飯嶋さんは、2014年5月24日(土)から始まった「パランセプストー重ね書きされた記憶 Palimpsest-Overwritten Memories」に出品されています。この展覧会は、glleryαM(武蔵野美術大学が所有するスペース)で開催されている企画展示です。本学教授の北澤憲昭先生が3回、宮城県美術館総括研究員の和田浩一さんが4回と分けてアーティストの展示を企画しています。その第1回目の展示が飯嶋さんです。
飯嶋さんは、日常生活と制作を切り離さないで活動されているとおっしゃいました。そして、家族の中で生成される記憶に興味があるそうです。家族は、そこで育まれた記憶によって家族という形を持つのではないか。だから、例えば自分が持っていない記憶があったとしても、それは家族によって補うことが出来るのではないか、と考えているとのことです。
また、衣服は人の体を包むものであって、記憶が染み付きやすい物質だと思うともおっしゃていました。飯嶋さんの制作は、大きくこの2点を中心にしておこなわれています。
レクチャーでは、展覧会に出品されている作品を中心にお話していただきました。
まず、家の形をした作品《開封のイエ》についてです。
“イエ”シリーズと呼ばれるこの作品は、まさしく“イエ”の形をしています。パラフィンワックス(ろうそくの原料)を溶かして箱に流し込み、そこに食器や古着、靴などを入れて、ある程度固まったら“イエ”の形に切り出しています。はじめから“イエ”の形にはせずに、あえてそこから“イエ”の形に切り出す行為には、抑圧という暴力性を切断という暴力的な手法で越えていこうとする考えがあるそうです。
“イエ”には、家族を保護する役割があります。鍵をかけて戸締まりすることで、安全な場所と化し、建物という物理的なもので外部のものから守ります。家族という人そのものも、精神的な安定という面で守っていると言えますが、そこには同時に抑圧的な部分(例えば親からの監視など)というのも存在しています。こうしたことを、自然による脅威(例えば台風とか)が全てを無にしてしまうような力で、家族というイデオロギーを越えていこうとされているともおっしゃっていました。
はじめから、古着などを固めて“イエ”を切り出すという方法をしていたのではなく、シリコンの型にパラフィンワックスで家の形に固めて、同じものを量産する作品を作っていたそうです。それは、飯嶋さんが幼い頃、住んでいる地域に建て売り住宅が一斉に作られたという体験からきているとも、おっしゃっていました。
最初の頃には、“イエ”という形を制作していましたが、それから家のあり方よりも内部、家族の記憶の集積体としてのことに関心が移っていき、そこから古着や食器を入れ込んで作っていくスタイルになったそうです。
これまでは、パラフィンワックスを使用した立体作品を制作していましたが、ここからは布やボタンといった素材へ移行していきます。いわゆる彫刻作品は、その場所に自立して置くことができます。しかし、布という素材は、吊ったり貼ったりしなければ自立出来ません。こうした自立の難しい素材に挑戦していきます。
《colorful stars in the white sky》は、壁一面に均等にボタンがついており、そこには、あたかも中身があるかのような厚みを持った、人の形をした布がくっついています。その布を広げると、均等に並べてあるボタン全てをとめることのできるボタンホールが存在しているそうです。半立体になっている中身のない人の形をした布は、このボタンとボタンホールを組み合わせています。
そもそも飯嶋さんのおばあ様が洋裁をしており、小瓶にボタンを入れていたそうです。それを何か作品に出来ないかと考えたところから出発しているとのことです。
半立体的にさせ、人の形にしているのには、影や幽霊といったイメージがあるそうです。幽霊は記憶によってこの世に取り残されているもので、その人を完全に忘れてしまえばそれはなくなる。しかし、生きている人たちがときどき記憶を思い起こすことで、立ち上がってくるものなのではないか、とおっしゃっていました。
また、服というのは人の記憶が染込みやすいもので、それを着ていた人を想起することができるものです。そして、ボタンは鉄を溶接するような強固な接着ではなく、いつでも簡単に引っ掛けるだけでとめられます。人を服の中に閉じ込めたり外に出すということを、スイッチする役割をボタンは持っているのではないかと、いうことでした。
《mob-a ghost of clothes》は、服についているタグを使った作品です。タグは、大体どの服にもついています(そしてそれは、首のあたりにあります)。それだけを集めて細かい糸で縫い合わせてシャツにして、本来は中に隠れているタグが前面に出るようにしてあります。着るということの意味合いや、本当に保護をしているのかというのを問う、アイロニカルな作品になっています。
《format》シリーズは、毛皮のコートを使用した作品です。毛皮のコートをパーツごとに分解し、フェイクファーの布にその分解した毛皮のコートを縫い合わせます。コートの型を回転させて切り出し、またコートの形に構成します。このコートをパーツごとに分解して、フェイクファーの布に縫い合わせて・・・・・・を繰り返していきます。そうすることで、コートの端に前のフェイクファーが残っていきますが、繰り返すうちにオール100%のフェイクファーのコートへと仕上がります。
自分で決めたルールに従って構成と解体を繰り返していくうちに、コートの質が100%入れ替わってしまいます。
実際にこれまでの展示では、出来上がった作品を写真にしてみたり、液晶でみせたりしてきたそうです。最近では、プロジェクターの電源を落としてしまうと何もなくなってしまうような、その感覚が、“記憶がない”という怖さを表している気がしているとおっしゃっていました。
一般的な大きな流れの関心が大きな文脈だとしたら、飯嶋さんの作品でいえば“イエ”の記憶であるとしたとき、そこに漂う集約されないもの、雑味やよどみといったものを、意識は出来ないけれど人の心に突き刺してくれるようならありがたいし、そう願うような気持ちで制作されているとおっしゃっていました。
アーティストとして活動していますが、大学で働いているので、学生たちにとっては身近なために現実的なのではないでしょうか。
glleryαMでの展示は、6月21日までですので、ぜひ、会場へ足を運んでみてください。
αMプロジェクト2014 「パランプセストー重ね書きされた記憶/記憶の重ね書き」
vol.1 飯嶋桃代
会期:2014年5月24日(土)~6月21日(土)
時間:11時~19時(日・月・祝日休み)
会場:gallery αM
※vol.2以降や詳細に関してはHPでご確認ください
それでは。
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