2014年6月6日金曜日

芸術表象論特講#5

こんにちは。研究室へはいるとむぁっと暑いので、ちょっと困ってます。
5月21日におこなわれました、「芸術表象論特講」5回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、デザイナーの山田麗音さんでした。



山田さんの「麗音」は「れのん」と呼びます。れのん・・・レノン・・・そうです、あの伝説のグループのメンバーのひとりからきているそうです。

山田さんは、京都造形芸術大学情報デザイン学科を卒業されています。杉田先生が、京都造形芸術大学で非常勤講師をされていた頃、先生の夏期講習の授業を受講し、現代美術を知ったそうです。
山田さんが当時在籍していた情報デザイン学科のコースには、現代美術、写真、アニメーション、コミュニケーションデザインなど全般を扱っており、アカデミックなタイポグラフィーの授業もあれば、当時流行っていたようなアートをする学生もいたそうです。つまり、自然と現代美術に関わっていく環境は備わっていた。そのため、現在の活動に決定的な影響を与えたのは、現代美術だとおっしゃいました。そのきっかけをくれたのは、杉田先生であり、先生の授業を聞いてとてもわかりやすく、現代美術に驚きを持ったのだそうです。
2007年、大学在学中にコンセプチュアルデザイングループ「BACADESIGN」を設立しました。BACADESIGNは、メンバーが確定せず、来た仕事によってプロフェッショナルを集めておこなうグループです。
与えられた問題そのものが最終的な形を決定していく、当たり前のデザイン。デザイナーは固有のスタイル、味や癖、その人の色を持ち出すとそれで仕事をしたくなっていくものです。それで良いものが出来たりすると、今度はそれを見て新しい依頼が発生したりします。自分の技で仕事ができるようになれば、きっと幸せです。ただその反面そこから抜け出しにくくなるため、そうしたジレンマみたいなのがあるらしいです。山田さんはいわゆるデザイナーのスタイルではなく、もらった企画や問題がどういう形になっていくのかということをやって、社会の中で展開していくことを目的にしていきたいとおっしゃっていました。
山田さんの活動としては、普段は企業のグラフィックとかを中心にやっている一方で、少し実験的なデザイン、今で言う非営利デザインとかクリティカルデザインと言われるような活動で、展覧会やイベントをしたりキュレーションをしたりしているそうです。

これまで山田さんがおこなってきた展覧会の活動を見せていただきました。

公的な場所で作品を発表できる、ということで参加したグループ展示「世界展」(京都市美術館、2008)。ここでは、《Free Right》という作品を出品されたそうです。この作品は、高さが90センチの展示台に家にあるような電気のスイッチが置いてあり、そのスイッチを押すと展示室の照明がついたり消えたりするものでした。この作品を設置するとき、最初に美術館へ相談をしたら、できないと断られてしまったそうです。美術館は権威的な場所なので、前例のないことはなるべくしないで欲しいという考えがあります。そこで山田さんは、スイッチを電気に直結させず、展示台からコードを引いて美術館の配電室につなげました。その先はラジオにつながっていて、スイッチがONになったときはラジオから「サー」って音がして照明が消える。OFFになったら照明がつく、という単純な仕組みに変えました。山田さんは、展示期間中の2週間、朝の9時から夕方の5時まで美術館の配電室に籠もり、ラジオの「サー」って音がしたら展示室の照明を(6つの固いレバーを降ろして)消していたそうです。
タイトルの「ライト」は照明という意味ではなく、権利という意味で使用したかったのでわざと「R
」がつく「Right」にし、鑑賞者に対し自由に権利を与えるという意味なのだそうです。

上述した展示を面白がってもらえたため、1ヶ月後に企画展に誘われます。
それが、「\POP/展 -ばんざいにっぽん-」(京都造形芸術大学 GALLERY RAKU2008)でした。ここでは、《Ready》という作品を出品しています。この作品は、展示期間中の毎日12時になると、ピザ屋の店員が展示台の上に注文したピザを配達するというものでした。アートの領域ではない日常のシステムとか仕組みの中で、普通におこなわれていることをアートの空間に持って来るとどうなるのかを見てみたかった、ということからできたものなのだそうです。
タイトルは、日常英会話的に言えば「どうぞ」を意味し、山田さんはピザをピザとして展示台の上に出して、みんながおなかがすく時間帯に来た人にピザを振る舞うので、あれは作品ではないそうです。ただのピザだけど、それが美術空間というギャラリーにしかも展示台の上に置かれたとき、このピザは食べられるが食べられることはない、という副題的なテーマをつけていたそうです。しかし、初日に来た女子高生の団体に全て食べられたとか・・・。
最終日、出品作家のコンタクトゴンゾのパフォーマンスがおこなわれ、山田さんの展示台が吹っ飛ばされて定位置からずれてしまった。そこに、配達に訪れた店員さんが、展示台がないことに狼狽して、そぉーっとピザを置いて帰っていったそうです。

卒業してからおこなった「CHANCE GUIDE」(MADIA SHOP、2010)は、本のセレクトショップであるMADIA SHOPからの依頼ででおこなった展示です。ギャラリースペースもありますが、MADIA SHOPとしての歴史や経緯などを聞きギャラリースペースではなく、あえて本屋の方で展示をおこなったとのことです。このスペースは、あらゆる情報と出会える場所にしたいというメッセージから始まっていることと、ショップの名前がメディアを売るというのから、これを率直に形にしたらどうなるかという発想があるそうです。
実際には、ショップ内にある全ての本に、白いブックカバーをかけることをしました。通常、本の背表紙にある情報(タイトル・著者名など)や本屋によっては棚を分類しているのでそこから欲しい本を探したり、たどり着いたりするものです。しかし、それをすべて白い紙で覆ってしまう。お客さんは見た目ではわからないので、まるでおみくじをするかのように選び、その本と出会うことになる。ショップはあらゆる情報と出会う場所としているのだから、このやり方もありだと思ったと山田さんはおっしゃっていました。

次第にキュレーションにも携わっていくようになります。
PARASITISM寄生の美学」(VOX SQUARE、2012)は、山田さんの知り合いに呼びかけておこなわれた展示です。
寄生という言葉が持っている力やイメージを美しいと捉えることができるか、ということで展覧会のタイトルがつけられました。それだけではなく、世代的な問題も捉えたいということから、SNSやFacebook、Twitterで記事をシェアしたり、リツイートすることは、誰かのメッセージに寄生して自分もメッセージがありますよという表現だったりするのではないか。また、震災以後、国の力とかに頼りながら生きて行くことをネガティブに捉えるのではなく、むしろポジティブにとらえられないか。寄生という言葉そのものもポジティブに捉えられることはできないか、ということも考えていたそうです。
この展覧会の宣伝媒体は、チラシやDMではなく、ステッカーにしたそうです。ステッカーには、「同時期開催」と記されており、このステッカーをその時に開催されている他の展覧会のチラシやポスターに貼付けることが出来るようにしていました。つまり、他の展覧会に“寄生"するということでしょうか・・・。このステッカーのことで出品作家たちは議論になったそうです。良いと思った作家もいれば、人が作ったものに対して害する行為は出来ないと拒む作家もいたそうですが、山田さんとしては広報物に対して作家がこれだけ関わってくる対話が出来たことが、何よりもやってよかったかなと思ったそうです。

「PARASITISM寄生の美学」の展示を見た、インディペント・キュレーターの遠藤水城さんから、HAPSでキュレーションをしないかと声をかけられます。実は、4月30日にレクチャーをしてくださったイ・ハヌルさんがおっしゃっていたHAPSでのキュレーター養成を目的とした1年間の企画の時に、ハヌルさんともう1人選ばれたのが山田さんでした。(HAPSについては、前々号のブログ(芸術表象論特講#3)のハヌルさんの部分に書いています。)
山田さんは遠藤さんから、「税金を使ってアートを人に見せることについて考えて欲しい」と「実験的でコンセプチュアルであって欲しい」というお題を出されたそうです。しかし、なかなか2つのお題をつなげることが難しい中で、「公私混同のかたち」という展示をおこないました。

あまりセルフワークをおこなわないという山田さん。1つだけやったものがあるそうです。それが、《時計を計る/time counter》(2011)です。「計る」というのには、1.数、量を数える、2.推測する、予測する、3.だます、という意味があり、この3つを叶えた時計が本当の時計ではないかという発想からきているそうです。実際に持ってきていただきました。

                                     ▲ photo : atsushi sugita

▲授業の前に、実際に教室の壁にかけておきました。
短針が秒、長針が時間、秒針が分になっています。

山田さんの活動を中心にお話をしていただきました。あくまでもデザインの活動をメインにしていらっしゃるようですが、キュレーションをおこなうなど、その活動は幅広いです。ご自身がアートに影響を受けていることを自覚し、それが今の活動にもつながっているようです。しそしてアートの世界とそうではない世界をどうつなげるか、それを、身の回りの生活の中から入っていけたらとおっしゃっていました。
また、在学中に「BACADESIGN」を立ち上げるなどの瞬発力は、学生にとっても良い刺激になったのではないでしょうか。


山田さんのHAPSでの展示はこちら。

山田さんが不定期で配信している番組です。



それでは。

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