こんにちは。スギ花粉は終わったみたいですが、なにやら鼻や目がかゆい日々です。
4月30日におこなわれました、「芸術表象論特講」3回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、イ・ハヌルさん、竹中愛咲子さん、髙橋夏菜さんの3人でした。
▲左から髙橋さん、竹中さん、ハヌルさん
この3人は、学生のときにキュレーションをおこなったという共通点があります。レクチャーでは、それぞれのキュレーションについてお話いていただきました。
髙橋夏菜さんは、今年の3月に女子美術大学大学院を修了されました。
2012年にトーキョーワンダーサイト本郷にて開催された、「TOC [toasters city / country / cosmos]」をキュレーションしました。これは、トーキョーワンダーサイト(以下、ワンダーサイト)の第7回企画公募展に応募して、選考の結果「奨励賞(キュレーション・ゼミ選出)」を授賞し開催された展覧会です。
ワンダーサイトは、東京都が主催しているアートセンターです。展覧会の企画を志している若手への支援・育成を目的とし、展覧会を企画そのものを公募するプログラムが「展覧会企画公募」です。審査の結果選出された企画は、ワンダーサイトが支援し、本郷にて展覧会を実施する機会を与えられます。髙橋さんが応募した第7回は、「キュレーションとは何か?」というのがテーマだったそうです。
髙橋さんは、当時女子美の学生だった市村香織さんからキュレーションをしてもらえないかと話をもちかけられたそうです。この時点で、髙橋さん自身はキュレーションをしたことはなかったそうですが、市村さんの話を聞いて受けようと思ったといいます。
最初にワンダーサイトへ書類を作成したとき、「非日常性」をテーマにしていました。ワンダーサイトは以前は教育庁の庁舎や、職業訓練所として使われていました。今はアートを発信していく場所になってはいますが、社会に向けてより平均的なものを身につけていく職業訓練所があったということが建物からしたら、現在は非日常的なことなのではないか、と考えました。そこで、場所の「非日常性」とアーティストの「非日常性」を組み合わせた企画を提出しました。
二次面接の際に、この企画が実現不可能であるけれど、公募展と付随しておこなわれていたキュレーションゼミに参加していた髙橋さんは、そこで規模を縮めてやってみないかと言われ、実現することになったそうです。
展覧会では、成果物やアイデアスケッチ、メール、企画書などを出力し、それを壁に貼り出すことにより時間の蓄積などを表現しました。
結果として、展覧会はプロセスが強くなり、アーティストが考えていたことや髙橋さん自身が考えていたことが、積み重なってきたことよりも弱かったということを表すことになったといいます。キュレーターとアーティストの関係性を考えるうえで、こういう見せ方もありなのではないか、公募展のテーマの答えの1つでもあるのではないかと思う、とおっしゃっていました。
イ・ハヌルさんは、韓国のソウル出身です。京都造形大学大学院でキュレーターを目指して、これまで様々な展覧会の企画に関わってこられました。
高校までは韓国画(日本でいう日本画的な)を専攻し、その後アメリカへ留学してファッションの勉強をしていたといいます。改めて今後について考えた時、昔からやってきていた蓄積のあるアートに関わりたいと思い、アートで自分は何が出来るかと考えていたときにキュレーションを知り、それを学んでみようと思ったそうです。しかし正直、何がキュレーションであってキュレーターになるにはどうしたらいいのか分からなかったので、とりあえず自分がいる場所で自分が出来ること、展示を少しずつやっていこうと思ったそうです。大学1年生のときに、大学でおこなわれていた名和晃平さんのプロジェクトに1年間参加。アーティストの現場を近くで見るという体験をし、その後もいろいろな展覧会に関わっていったそうです。
今回のレクチャーでは、昨年におこなわれた展覧会のキュレーションについてお話ししていただきました。
京都のアーティストを支援する施設HAPS(東山アーティスツ・プレスメント・サービス)で、昨年展覧会をおこないました。ここでは、インディペント・キュレーターの遠藤水城さんがディレクターをつとめており、HAPSのオフィスは古い町屋をリノベーションして使っています。1階はオルタナティブ・スペース、2階はオフィスとなっています。それまで面識のなかった遠藤さんに、昨年の春ごろに呼ばれ、キュレーター養成を目的とした1年間の企画をしたいと言われ、ハヌルさんともう1人の人が選ばれて、2人で1年間の企画をまわすことになったとのことです。与えられた期間は4ヶ月間。ハヌルさんは1ヶ月に1人の小さな個展を企画しました。
4年間京都に住み、様々な展覧会も見て、ここで出会えた若手のアーティストの中で、学校を卒業したばかりである若手アーティストを、自分のフィルターを通してプレゼンできたらいいなと思ったそうです。それと、HAPSのギャラリーがショーウインドウのような状態(ギャラリー内に入れない)で展示する特殊な場所ということもあり、作品を美術館やギャラリーのホワイトキューブで展示するのとは異なる、少し特殊な条件を活かして実験的な展示を試みたいというのも考えていたそうです。アーティストにも、今まで実現できなかったプランやこの場所でやりたいことをやってくださいというふうにしました。
ハヌルさんは、作品はどこからどこまでかという疑問があるとおっしゃいました。アーティストが作りたいなとアイデアが浮かんだ瞬間からなのか、それともそれが形として表れて作品になったときなのか・・・。そこから、作品プロセスはどう制作されているのか、作品を作っていくうえで、アーティスト自身が考えていること、こうしたことを何らかの形にして発信できたらいいなと思い、アーティストたちのインタビューをおこないました。ただ、テキストだけでインタビューを発信するのは知名度があまりない若手アーティストには力がなく、面白くないと思い映像をミニクリップにして、YouTubeで流したりしたそうです。
HAPSでの展示をおこなっているうちに、キュレーターとしては出展作家たちの今までの作品もちゃんとし見せてみたいという願望が湧いてきたといいます。そこで、所属している大学のギャラリーであるARTZONEからオファーがあったので、HAPSの展示を発展させた展覧会を企画しました。HAPSでの展示では若手アーティストの今を象徴する作家の作品からみられる共通性という意味合いから「非線形」というテーマを決めていましたが、「非線形」というのがあまりにも無機質的すぎてわかりにくいということで、ARTZONEにての展覧会では、HAPSでの企画テーマと延長線上にあって、コンセプトが伝わりやすい「What's next?」というタイトルにしたそうです。これはHAPSで展示したアーティストのグループ展となりました。
展覧会では、各作家ごとに2つの映像を見せたそうです。1つは、アトリエで作家の制作風景。もう1つはHAPSの展示後に新作を制作したので、そのこととかについてのインタビューだったそうです。
ハヌルさんは、作品を作る立場の人と、キュレーションをする人はあまりかわらないとおっしゃっていました。何かを作り上げていく、作り手がいろいろ素材とかで実験や発表する場を通してチャレンジしているのと同じように、展覧会という素材でいろいろ実験しているような感じなのだそうです。
竹中愛咲子さんは今年、愛知県立芸術大学から大阪大学大学院へ進学されました。
レクチャーでは、昨年おこなった「売れる絵(仮)展」についてお話してくださいました。この展示は竹中さんが、学生たちに売れる絵というものを考えてもらうきっかけとして企画したそうです。アーティストとして活動していくうえで避けては通れない「売れる絵」(作家の表現発想が目的であり、いかなる地域や時代でも商品としての価値、アーティストの個性や芸術品としての価値が両立するもの)を、制作の狙いを変えることなく売るためには、どのようなことを考えなくてはいけないのかを意識して制作してもらい、実際にギャラリーで販売しようというものでした。普段考えない要素を考慮し制作してみることにより、学生の中でどのような心情の変化、絵画への意識の変化があるかを観察し、視点を変え制作してみる意義を考えることを目的としていました。
竹中さんはコレクターもされており、学生が作品を売るということに関心があったそうです。展示は、学内にあるスペースだと学校側にけんかを売るような感じになってしまうため、外のギャラリーでおこなわれました。会場となったギャラリーから、何かないかと話を持ちかけられたのもきっかけのようです。
アーティスト募集は、ホームページとFacebookで呼びかけし、説明会を3回実施した後、コンセプトを理解した人に参加してもらいました。
参加アーティストは11名、来場者は約800名、購入は3点あったそうです。
参加アーティストに対しておこなったアンケートや会場に置いていた感想ノート、情報を発信したTwitterでは、いろいろな反応が見られました。そこから、値段の付け方の難しさや、売れていく絵とそうでない絵の違いなどが見えたといいます。
竹中さんは、学生がキュレーションすることの意味とは、制作側の学生も企画側の学生も共に成長していくことができ、アーティストとキュレーターという異なる立場ではなく、学生として意見交換が可能だとおっしゃっていました。
最後は、杉田先生からの質問などに3人が答えていく形式となりました。
学生時代にキュレーションをしていた、という人は少ないかもしれません。そもそもキュレーションするとはどういうことなのでしょうか。作品を制作しただけでは、ただの自己満足になってしまいます。外にむけて発信していく、そのときにどのようにして発信するか。それを考えるのがキュレーションなのかもしれません。
髙橋さんの展覧会はこちら
ハヌルさんの展覧会はこちら
竹中さんの展覧会はこちら
それでは。
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