こんにちは。肌寒い日が続いていたと思いきや暑くなったりして、体調管理が心配です。
4月23日におこなわれました、「芸術表象論特講」2回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストのサエボーグさんでした。
サエボーグさんは、本学の卒業生です。第17回岡本太郎現代芸術賞(以下、TARO賞)の岡本敏子賞を授賞されました。会場には、作品の一部であるゴムで出来たぶたさん(サエポーク)と一緒に来てくださいました。
サエさんは、杉田先生が本学へ赴任されて1年目のときの学生だったそうです。絵画科洋画専攻の出身ですが、杉田先生にはずいぶんとお世話になったとか・・・。
今回は、このTARO賞をはじめ、サエさんの学生時代のお話、もちろん作品についても、いろいろとお話をしていただきました。
TARO賞に出品した作品は、《Slaughterhouse-9》というラバー(ゴム)で作った農園です。そこには、三つ編みの女の子、豚、羊、鶏などがいます。彼らは、肉をとられ、毛を刈られ、卵を産みます。彼らに対しておこなう行為は、私たちが生きるためにされる行為ですが、それはとても残酷だと思ってしまいます。家畜というのをテーマにしたのは、虐げられているもの、弱い存在のものを題材にしたいと思い、いくつか出た中の1つを今回は作品にしたそうです。このことを、ラバーで再現するパフォーマンスをサエさんはおこないました。レクチャーでは、実際のパフォーマンス映像を見せてくださいました。
パフォーマンスをした場所は、とてもいい場所だったそうですが、撮影しにくかったようです。照明もいじりたかったが、お金がかかるので出来なかったとおっしゃっていました。
なによりも、出品されている全てのラバーを作るのに、5年かかっているのと、莫大な費用がかかっているようです。TARO賞に応募したのも、賞金目当てだったとか。とにかく、作品制作にはお金がかかるようです。
では、なぜサエさんはラバーを使用した着ぐるみを作っているのか。
サエさんは、自分自身の見た目や、生物学的に女性という性別に限定されているのが耐え難く苦痛であり、“女だから”や“女子”、“女の子”といった枠組みにはめられていることが嫌なんだそうです。そして、生々しく、人間ぽいものが苦手で、人間の形も嫌い。自分が人間であることとか、女性であることとか、いろんなコンプレックスから脱却するために、ラバーを着ているそうです。
ラバーは人工的であるところがいいのと、自分の第二の皮膚だと思っているところがあり、着用することで性別や年齢、人間であることさえも超越した存在になることが出来ると思っているとのことです。
ラバーの着ぐるみは既製品ではなくサエさんによる手作りであり、サエさんのサイズに合わせて作られています。なので、着ぐるみを着用する際には、サエさんに似た体型でないと入らないとの事です。
制作費をどうやって捻出するか。そして生活費もどうやって稼ぐのか。そのため、賞の名誉よりも、単純に頑張って1位(岡本太郎賞)の賞金が欲しかったということと、確実に賞金をとるために、いかに2位と差をつけて1位をとるかということしか考えてなかったそうです。(ちなみに、2位は1位の半額の賞金でした)
そのため、これまで自分が正しいと思っていることをやってきたら失敗ばかりしてしまっていたので、今回は自分を信じないことにし、最初の審査に提出するポートフォリオを杉田先生に見てもらったそうです。そうしたら、ポートフォリオを全て直すようにと言われてしまったそうです。
サエさんは女子美に入学するまでに3浪しています。1・2年生の頃、課題は浪人中にさんざん描いていたのを提出して、ほとんど学校へ来ていなかったそうです。3年生になったとき、単位がまずい事に気がついて必死に授業を受けたそうです。なので、今でも単位を落とす夢を見るとか・・・。
では、学校へ来ていなかったときは何をしていたかというと、美術の本を読んだり、展覧会へ行ったりして勉強していたそうです。また、「デパートメントH」という広義の意味でのセクシャルマイノリティの人たちが集まるイベントでスタッフをしていたそうです。そこでは、ラバー(ゴム)を着て遊んでいたのですが、これが美術とつながるとは思っていなかったとのことでした。
ラバーの着ぐるみでのパフォーマンスは、美術とは別物として活動していたそうです。それが、卒業してから参加した杉田先生主催の展示でおこなわれたトークショーで話をしているときに、気がついたことがありました。サエさん自身にとっては、ジャンルは違っていても表現としては同じであり、ファインアートの世界でもやってもいいのだということ。
そうなれば、美術の方でもちゃんと発表しないと・・・と思ったけれど、発表できる場所がすぐにある訳ではありませんでした。なので「デパートメントH」でパフォーマンスをしていたようです。
現在も、「デパートメントH」にて「大ゴム祭」というのを年1回おこなっています。これはサエさんが企画などすべて担当されているそうです。全国から呼び寄せたゴム人間(ラバーフェチと呼ばれる人たち、思い思いのラバーを着こなしてきます)の紹介、Kurageさんのファッションショー、サエさんのパフォーマンスの3部構成で開催されています。
Kurageさんは、サエさんがお世話になっている池袋にショップを構えるラバーブランドです。分からない事があると、Kurageさんに相談することが多いそうですが、プロにタダで聞く発想が嫌なため、まずは自分でやって失敗に失敗を繰り返してから、プロの所に行って技を盗む。それか、「こういうことをやってみたけど、出来なかったのですが、あなたならどうしますか?」と尋ねて、いい案が返ってきたらそれを採用する方法もとっているそうです。サエさんは自分で着ぐるみを作るので、結局はプロが出来ても自分が出来なければ意味がないし、分からなかった所が解決するわけではありませんので。
TARO賞を授賞してから、アートの業界で認知してもらえるようになり、より沢山の人達に観て貰えるようになったそうです。特に、批評してくれるようになったことが良かったとおっしゃっていました。なぜなら、それまでは、ラバーの着ぐるみとかを見ても、「かわいい」としか言ってもらえなかったからだそうです。
▲学生からの質問に答えるサエボーグさん
サエさんが使用しているラバーの世界はとても深く、驚きました。また、サエさん自身の制作に対する姿勢や発表する行動力、美術に対する向き合い方との葛藤は、学生にとって励みにもなり目標となると思います。
フランスとドイツによるテレビ局の番組で、サエさんの個展を中心としたドキュメンタリーが放送されたそうです。日本にとどまらない活躍が期待されます。今後のサエさんの活動に注目です。
サエボーグさんのブログはこちら
岡本太郎現代芸術賞に関してはこちら
それでは。
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