2013年7月26日金曜日

芸術表象論特講 # 7

こんにちは。気がつけばもう7月なんですね。

7月3日におこなわれました、「芸術表象論特講」7回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。

今回のゲストは、井上文雄さん(本学非常勤講師、CAMP主催)と菅谷奈緒さん(本学卒業生、アーティスト)でした。



井上さんは、昨年の「芸術表象論特講」1回目のゲストでした。非常勤講師として芸術表象専攻の「IDゼミ」(3年次授業)を担当していただいています。また、CAMPというトークイベントをおこなうグループを運営しています。菅谷さんは、女子美術大学大学院を修了し、アーティストとして活動されています。学生の頃は金属の作品を制作していたようです。近年は、NHKの気象予報で聞いた射撃訓練がおこなわれるという情報から、実際に天気図へ書きおこすという作品を発表しました。最近はアートから離れているらしく、鷲尾蓉子さん(アーティスト、女子美を卒業し東京藝術大学に現在は在籍)が企画した、「タウンミーティング」(http://town-meeting.hateblo.jp/entry/2013/04/16/001413)というイベントに参加したそうです。そして、言葉もメディアのひとつだから、それを信用しすぎないようにしたいと思い、最近では肩書きを「アーティスト」ではなく「詩人」というふうにしているそうです。

ディスカッションの場で、よく一緒になる2人。そして、よく論争もしているそうです。今回のレクチャーでは、杉田先生も交えて、ディスカッションについてお話いていただきました。




よく、「話すのが下手なので、ディスカッションは苦手です」と言う人がいる。でも、ディスカッションって話すだけの場所なのだろうか。井上さんは、話さないといけないから苦手と思うけど、実は人の話を聞く作業の場なのではないかとおっしゃっていました。人に話す、伝えるというのは、確かに難しいことです。しかし、話し合うということは、相手の話をきちんと聞いていないと成立しないものです。人の話を聞くのは、結構難しいことでもあります。

ディスカッションをおこなうとき、いくら自由に発言していいからと言っても、参加者と自分の関係性を気にしてしまいます。どうして気にするのかと思う人もいるかもしれませんが、やはり、自分の活動に関わりそうだったら肩書きや地位といったものを気にして、批判的なことは控えてしまいます。それでは、そういうのを少しでも薄くするにはどうしたらいいか。例えば、参加者にかわいいあだ名をつけてそれで呼び合う。実際に動物の名前で呼び合うといことを試みて、ちょっと有名な先生を「くまちゃん」とその回では呼んでみたそうです。また、菅谷さんは語尾に「ゾルゲ」とつけて話してみる、ということを提案されていました。

誰かと誰か、何人かが集まってあるテーマについて話し合う。実際に難しいこともあり、それによってつまらなくなったりすることもある。しかし、話すことで生まれることや発見することもたくさんあります。井上さんと菅谷さんのお話から、ディスカッションって奥深いな・・・と思った学生もいたのではないでしょうか。



井上文雄さんが主催するCAMPの情報はこちら

菅谷奈緒さんの活動情報はこちら
それぞれ面白いので、チェックしてみてください。



それでは

2013年7月8日月曜日

芸術表象論特講 # 6

こんにちは。近くの公園の時計から流れる「茶摘み」のメロディを聞きながら、ブログをチェックしています。

6月19日におこなわれました、「芸術表象論特講」6回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。

今回のゲストは、株式会社fevの上平築さん(代表取締役)と原田晋さんでした。





fevは「心がつながる場をデザインする」をコンセプトとしているデザイン事務所です。様々なツール(グラフィック・web・映像・システム構築)を使用して、依頼主の手助けをします。このfevが、「クリエイター志望の学生の就労支援」として立上げたプロジェクト「てにをは デザインプロジェクト」(以下、「てにをは」)を、昨年試験的に女子美でおこないました。

実は原田さんは、2年前まで女子美術大学大学院GPプログラム(http://www.joshibi.net/outreach/gsgp/)のスタッフとして働いていました。
その後fevに入社。女子美とのつながりがあった原田さんがいたことで、「てにをは」を試験的におこなうことになりました。

「てにをは」は、「クリエイター志望の学生が、NPOの広報物を制作することにより、学生の就労を支援とともに、NPOの社会貢献活動をサポートしていくプロジェクト」です。

学生をという側面は、23年前に新卒の募集をしたところ500人の応募があり、その選考の中で、会社側が見たいと思う制作実績がなかったことがきっかけだったと言います。どちらかと言えば、アート的なものが多く、会社としては見てもわからない、その人がはたいしてどういったものが作れるのか、どんな強みがあるのかがわからなかったそうです。学生のうちに、制作実績を作っていれば、就職できた人もいるかもしれない・・・そういう思いがあったそうです。

なぜ、NPOなのか。

以前、事務所をシェアしていたバリューブックス(http://www.value-books.jp/ 古本を買取り、Amazonなどでそれを売ることで、売上金の一部をNPOに寄付するなど、古本の利用を考える会社)の代表の方が、長野県にある認定NPO法人「侍学園 http://www.samugaku.com/」(ひきこもりの子を社会復帰できるよう支援する団体)の理事長が高校の教員をしていたときの生徒らしく、そのつながりで、NPOを初めて知ったそうです。上平さんは当時、バリューブックスの役員として関わっており、自社でも何かしようかなというのがきっかけで、NPOとの接点を増やしていかれたそうです。

デザイン会社に就職したい学生は商業実績がないに等しく、就職できないことが多い。NPOは、お金がなくスタッフも少ないとなると広報に力を入れにくくなる。この2つを橋渡しすれば、それぞれが欲しいものが手に入るということで、デザインのプロジェクトを立ち上げたそうです。

「てにをは」の作業は、約1年ほどおこなわれました。1ヶ月に1度のペースで上平さんと原田さんが学校へ来てくださり、学生たちと作業を進めていきました。作業内容としては、fevが普段おこなっている作業の基本的な3つのこと(1.目的はなにか、2.ターゲットは誰か、3.そこから導き出されるコンセプト)を実施、コンセプトシートを制作し、依頼主にプレゼンテーション、OKが出たら実作し始める、つまりはインターンと同じことをしてもらいました。

レクチャー当日は、実際に関わった学生2名にも来てもらい、話をしてもらいました。
学生は2人ともデザイン科ではなく絵画科のため、考え方などいろいろと苦戦したとのことでした。作業の後半は、NPOの「キズキ共育塾(http://kizuki.or.jp/)」(なんらかの事情で学校をやめたり、行かなくなったという学生の、もう一度学びたいという思いを支援し、大学進学までサポートしてくれる学習塾)の卒業式をプロデュースし、3月に女子美の杉並校舎で開催しました。会場の装飾や、プロモーションビデオの作成を通して、多くのものを得たようでした。※2人は、来年の春からfevの一員として働くことになりました。


「てにをは」の他に、上平さんと原田さんの仕事以外のお話もしてくださいました。

アーティストでもある原田さん。USTREAMでアート番組を放送する「comos-tv http://comos-tv.com/)」等、さまざまな活動をしているそうです。アート活動は、仕事とは切り離しはするが、常に隣にある。どちらにもリンク、アンテナを巡らすことで色々な形で、人と人とを「より面白く」繋げることが出来るのではないかと考えられているそうです。

上平さんは、7月に事務所のミーティングスペースを使い、人生をエフェクトするエフェクター専門店「TOKYO EFFRCTORhttp://tokyo-effector.jp/)」をオープンさせるそうです。もともと、学生時代はバンドをし、最初に就職した先も楽器屋さんだったそうです。楽器屋の概念を覆そうと思っていると意気込んでいました。

学校は小さな世界です。しかし、私たちが生きる世界はもっと広い。それは学校を出て、仕事を始めると嫌でもわかってくることです。「てにをは」はもっと前からそれを自覚させ、経験を積ませてくれる、そんな場所なのかもしれません。


株式会社fev
http://www.fevinc.jp/



それでは。

芸術表象論特講#5


こんにちは。熱中症に気をつけながらすごしています。

6月12日におこなわれました、「芸術表象論特講」5回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。

今回のゲストは、杉田敦先生(本学教授)でした。







杉田先生は先日、ヴェネチア・ビエンナーレに行かれました。今回は、その報告です。

ヴェネチア・ビエンナーレとは、イタリアにあるヴェネチア(英語ではヴェニス)で2年に1度、開催されている国際展覧会です。最初の開催が1895年と、大変歴史の長い展覧会であり、国際展の原型とも言われています。美術の他に音楽・映画・演劇・建築の部門があり、日本は1952年から国として参加しています(その前からの参加もありますが、国の建物を持ったのはこのときからだそうです)。

この展覧会は国別対抗と言われるように、各国の展示館が存在します。日本も「日本館」と呼ばれる建物を所有し、そこに展示をおこなっています。今年は、この日本館が参加してから初めて「特別表彰」を受けるなど、ニュースでも報道され知っていた学生も多いと思います。

今回の日本館キュレーターは蔵屋美香氏(東京国立近代美術館)、アーティストは田中功起氏でした。蔵屋氏は、女子美術大学を卒業し千葉大学大学院へ進学、学芸員となり数々の展覧会企画をおこなってきました。展示では、前年に開催された建築部門での状態をそのまま利用しています。ちなみに、建築部門で日本は「金獅子賞」を受賞しました。

ヴェネチアは、いろいろな小説や映画の舞台となっているところです。例えばシェイクスピア『ヴェニスの商人』や、映画では『ベニスに死す』などがあり、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。観光地としても有名で、街の中心部分には車や自転車での通行は出来ないそうで、舟が交通手段として用いられているそうです。

55回目をむかえた今回は、150人ほどのアーティストと88の国が参加しました。アーティスティック・キュレーターは、イタリア人のマッシミリアーノ・ジョンニ氏。総合テーマは「エンサイクロペディック・パレス(The Encyclopedic Palace)」、これはイメージ世界の地図を製作することを目指すということらしいです。日本からは蔵屋氏と田中氏以外にも、参加しているアーティストがいたそうです。

レクチャーでは、杉田先生が見てきた作品の写真や動画を、いくつか見せてくださいました。田中氏の作品はもちろん、ピーター・フィッシュリ&デヴィッド・ヴァイスの粘土作品や、落ちてくる金貨の作品、アーティスト部門で金獅子賞を取った作品など、面白そうなものばかりでした。また、展示会場に船を使用しているポルトガル館や、ドイツとフランス館はそれぞれの展示館を交換しているなど、国や場所という概念を超えているのも、考え深いです。

今回のヴェネチア・ビエンナーレは、「アートって何だろう」と思わせるくらい、形が無くなってきていると思ったそうです。例えば、作品として出すときは、完璧なものをと思いがちですが、そうではなく、田中氏の受賞理由にもあるようなのですが、失敗の提示にも意味があるのではないかと考えられるようになってきたのだそうです。また、今まで視野に入らなかったような、形として見えていなかった作品や小さな活動というものが視野に入りだした。つまり、今までのアートの概念を超えて、新しい創造を表現する方法が多様化し、それを受入れる方向にむかっているのかもしれません。

ヴェネチア・ビエンナーレは61日~1124日までおこなっているそうです。
公式ホームページもありますので、興味がありましたらチェックしてみてください。

ヴェネチア・ビエンナーレ公式HP(日本語ではありません)

その他、関連記事などはアート関係の情報サイトにあります。

それでは。


芸術表象論特講#4


こんにちは。いつのまにか梅雨があけて、うだるような暑さにまいってしまいそうです。

529日におこなわれました、「芸術表象論特講」4回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。

今回のゲストは、北澤憲昭先生(本学教授)でした。





北澤先生は2008年から女子美術大学の所属となりました。その前は跡見女子大学に所属して、学部と大学院の美術史の授業を担当していました。

跡見におられるとき、芸大や多摩美で非常勤として教壇に立った経験から、美大で教えたいという思いを抱くようになったそうです。念願かなって女子美の勤務となったわけです。

レクチャーの内容は、物書きの日常についてでした。北澤先生の本職は著述業で、その業績が認められて大学で教えるようになったということです。具体的には、現代美術と日本美術史についての著書が多いのですが、絵画そのものや作家その人というよりは、美術というジャンルが歴史的にどうやって形成されてきたのかということに関心を抱いているそうです。

北澤先生は、1週間のうち3日間が大学でのお仕事です。

それでは、残りの4日間は何をしているのでしょうか。

4日間のうち1日は、跡見女子大学へ出校されます。あとの3日は、主に執筆活動や講演会などにあてられます。わずかな時間での執筆活動。昨年、2冊の書籍を出版され、今年も出版予定の書籍があるなかで、校正刷りのままの状態の本が、そのほかにもいくつかあるそうです。また、2012年に刊行が始まった『日本美術全集』(小学館)の「前衛とモダン(明治時代後期~大正時代)」(第17巻、2014年配本予定)を担当されているため、その図版の選定などの仕事も抱えているとか。

物書きの仕事は、決して楽ではありません。一日中、机に向かっているのですから、不健康です。画家や彫刻家の仕事は身体活動が中心ですが、もの書きは、どれほど長時間、机に向かっていられるかが勝負だということで、北澤先生は、たとえば朝の8時に仕事をはじめて、気づいたら18時だったということもあるそうです。

このようなたとえ話をしてくださいました。探偵小説家志望の青年が、ある大作家を訪ねます。作家は青年を机の前に座らせ、そのまま出かけてしまいました。青年は、いわれるままに作家が帰ってくるのを待って、そこに座り続けていました。夜中になって帰って来た作家はそれをみて、青年の入門を許したそうです。これは、もの書きになるには、どれほど長いあいだ机に向かっていられるかが勝負であるということを表したお話です。座っていることが苦であっては、もの書きだけでなく、調査をすることも出来ないでしょう(調査は資料を机の上に置いて何時間もにらめっこしたりしますので)。

それと、プロになるとはどういうことかを教えてくださいました。

好きで描く(書く)、描きたい(書きたい)、表現したい、作りたいという欲求だけではアマチュアにすぎません。それを実現出来る技術があり、今の状況に対して、歴史に対して、時代に対して自分に何が出来るのか、それを考えてモチベーションを汲み上げるのがプロ。ただし、自分がやりたいことと、やるべきことを分離させてはいけません。自分がやりたいことは、ひとつとは限らないし、いくつかのやりたいことがあるはずです。それとやるべきことが重なるところに自分の仕事を方向づければいいのです。それがプロであり、そういう意識を持たなければ作家とは言えない・・・・と、アドバイスをしてくださいました。


北澤先生の日常を垣間見ることが出来た学生たち。将来を考えるひとつの指針になったのではないでしょうか。

最近の著書
『近代美術の名作150BT BOOKS)』美術出版社、2012
『反覆する岡本太郎 あるいは「絵画のテロル」』水声社、2012
『ラッセンとは何だったのか? ─消費とアートを越えた「先」』
フィルムアート社、2013年 (共著)
『美術のポリティクスー「工芸」の成り立ちを焦点として』
ゆまに学芸選書ULULA92013年(725日刊行予定 


それでは。