2012年11月28日水曜日

芸術表象論特講#15


こんにちは。厚手のコートや上着だけでは、寒さをしのげない日々です。

1121日におこなわれました「芸術表象論特講」15回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、イギリス在住の韓国人アーティストのユ・ウンジュ氏でした。





ウンジュ氏は、茨城県守谷市にある「ARCUS ProjectResidency for Artists Experiments for Locals Moriya, Ibaraki)」(以下、アーカスプロジェクト)の今年度のレジデンスプログラム招聘作家です。

アーカスプロジェクトは、茨城県が主催となり1994年から国際的に活動しているアーティストが滞在して制作する「アーティスト・イン・レジデンス」と、地域の人々が主体となっておこなう「ワークショッププログラム」の活動をおこなっています。
「アーティスト・イン・レジデンス」では、90日間の滞在制作とそのリサーチをサポートし、地元の人とも交流を重ねるそうです。今回、ウンジュ氏と共にアーカスプロジェクトのコーディネーターである石井瑞穂氏も来校されました。


▲石井氏と通訳の池田氏(ウンジュ氏は英語のため)


レクチャーでは、アーカスプロジェクトでの制作について、作品のプロセスを細かく話してくださいました。守谷市に在住している主婦のみなさんにワークショップとして参加してもらい、そこから出てきたものをウンジュ氏が映像作品にしてインスタレーションとして展示をおこなったそうです。

他に、過去の作品についても紹介してくださいました。

主にアニメーションの手法を用いた映像作品を作っていました。映像作品は、ウンジュ氏の個人的なものからではなく、ワークショップをおこない、そこから抽出されてきた参加者の個人的な部分(ストーリー)を使用しているようです。

もともと、韓国では彫刻を専攻されていたそうですが、典型的なアートではないものを学びたいという理由から、イギリスへ留学されました。そこでは、自分が考えたプロジェクトをずっとやっていくというプログラムで、理論面を学んだりするのではなく、自分がやりたいことをすることができたそうです。ここでの経験から、今ではプロジェクトの提案書がすんなり書けるようになったとのことです。

積極的に学生からの質問を受けており、学生たちも少しは将来について考えるきっかけになってくれたらいいなと思います。

授業後に話したりない学生が、ウンジュ氏に質問をしに行くなどしていました。

余談ではありますが、ウンジュ氏と石井氏は、女子美の学食で昼食をとられたり、女子美アートミュージアム(JAM)で開催されている展示を見学したりもしました。

ウンジュ氏は、近々イギリスへ帰国されるそうです。今後の作品も楽しみです。

アーカスプロジェクトの詳しい情報は、以下のホームページで確認してみてください。少し遠いですが、とても魅力的な場所です。


ARCUS ProjectResidency for Artists Experiments for Locals Moriya, Ibaraki



それでは。

2012年11月18日日曜日

芸術表象論特講#14

こんにちは、寒さがより強まってきました。

11月14日におこなわれました、「芸術表象特講」14回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、アーティストの山本高之氏でした。



山本氏の作品は主に、子どもたちとのワークショップをおこない、その成果をビデオ作品としています。

今年制作された作品から、これまでの作品も何点か見せてくださいました。

■ブラックホール
女の子と男の子が、その専門の大学教授からブラックホールとは何かという説明を受けている映像。女の子は、わからなくても相槌をしたりと気を使っているようにも見えます。


■どうぶつたちのいっしゅうかん(A WEEK OF THE ANIMALS)
動物園にいる動物たちは、労働しているだろうという発想から、子どもたちにそれぞれの動物の一週間を考えてもらい、ロシア民謡「一週間」にのせて、その動物の前で歌ってもらいます。

■どんなじごくへいくのかな(NEW HELL, WHAT KIND OF HELL WILL WE GO TO)
地獄絵図《本熊野歓心十界図》を見せて、それぞれが新しい地獄を考えるワークショップ。絵ではなく、立体的に作ります。

■きみのみらいをおしえます(TELLING YOUR FUTURE)
子どもたちに新しい占いを考えてもらい、実際にセットを作りお客さんを占います。

他にもいくつか見せていただきました。山本氏の作品は、下記のサイトから見ることができます。

実は、山本氏は小学校の教員を5年ほどしていた経験があります。

教員をしながら制作をしていたこともあり、そのとき出来た《まもるくん(PROTECTIVE SUIT MAMORU-KUN)》(登下校時に子どもを審者から守るための拘束具。まるでロボットのようないでたちですが、守られているのは上半身だけ)というのもありました。

子どもたちの姿に、学生たちは大笑いでした。

《きみのみらいをおしえます》は日本以外でもおこなっており、アメリカの子どもは踊り出したりと、国によっての違いが見られて、また面白みがありました。


▲学生の質問を受ける山本氏

子どもたちが考えていることは「鋭いものを危なく使った人が行く地獄」や「友達の消しゴムをふざけて折った」とか、結構具体的に提示するので、それが余計に面白く感じてしまいます。
しかし、彼らが映像のなかで繰り広げる些細な行動は、私たちにも経験があるはずなのに、まったく別のもので関係がない存在に思えてしまい、はっとすることがありました。


今後の山本氏の作品も楽しみです。

Takayuki Yamamoto
http://takayukiyamamoto.com
*こちらのサイトで、作品が見られます。


それでは。


2012年11月14日水曜日

芸術表象特講#13

こんにちは。学校の周辺にある公園の木々が、秋色に染まって、とてもきれいです。

11月7日におこなわれました、「芸術表象特講」13回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、アート・ジャーナリストのかないみき氏でした。



かない氏は、現在ドイツのベルリンを拠点にし、現地のアート情報を『美術手帖』などに掲載しています。
レクチャーでは、「ベルリンからのレポート アート・生活・社会」と題して、ドイツベルリンでの7つのアートプロジェクトとスペースついて紹介してくださいました。


①NGBK(Neue Gesellschaft für Billdende Kunst):
1969 年に設立した会員制のアートクラブ。現在の会員数は約800名ほどで、様々な職種の人が会員になっている。会員は、アートそのものに興味があるというよりも、アートを通して社会とのつながりを再構築したり、より良い社会を作るツールとしてのスタンスを持っている。年2回ある総会で、プロジェクトや展示について話し合っている。

Künstlerhaus Bethanien:

1974年、取り壊しの決まっている歴史のある病院を、政治団体が反対して建物を文化施設として利用したことから始まる。現代美術のためのインターナショナルなプロジェクトや、プレゼンテーションのためのプラットホームとしての運営がなされている。数年前に、すぐ近くに場所を移転した。

③Node:
キュレーターを養成するためのプライベートの学校。授業はすべて英語でおこなわれる。セオリーよりも実践的なことを学べるが、授業期間は3ヶ月間となっている。プログラムの後半には、クラスでひとつの展覧会をベルリンの若手を中心とした作家と共におこなう。

④n.b.k Artothek (Neuer Berliner Kunstverein):

図書館で本を借りるように、ベルリンの住民票があれば誰でもアート作品を借りることができる施設。20世紀から現代の作品まで約4000点ほどを所有している。なかには、有名なピカソやダリ、キリコといった作品もある(大御所の作品は主にプリントやドローイング作品)。アートをプライベートな場所に届けると同時に、作家(ベルリンを拠点にしている)の作品をコンスタントに買うことで、アーティストをサポートする目的を持っている。

⑤Mediations Biennale2012:
9月14日〜10月14日までポーランドでおこなわれていたビエンナーレ。今年で4回目となる。中央ヨーロッパでは最大の規模を誇り、西洋とアジアの仲介としての役割を持っている。異なる国のキュレーターによって作家を紹介している。今年は日本から、森美術館館長の南條史生氏が参加。

⑥ベルリン・ビエンナーレ:
今回で7回目となる展覧会。4月27日〜7月1日までおこなわれていた。「FORGET FEAR」がテーマ。このビエンナーレはいつも、ベルリンの街の歴史的背景から政治色の濃い内容だが、今年はそれが沸点に達したものとなっていた。
展覧会で出品されていた、ベルリン中心部の通りに壁を設置した作品、ナダ・ブルリャの《PEACE WALL》は、この地域にある格差問題を視覚化させ論争を巻き起こした。

⑦TRACK:
街中のアートプロジェクト。このなかで、公園内に隣接されている老人ホームや社交施設を2分の1に縮小したレプリカを木の上に設置した、ベンヤミン・ファードンクによる《フォージェレンザング・パーク17/2》を紹介。この作品は、ベルギーが抱えている住宅問題浮かび上がらせた。会期の半ばから、住宅事情の改善を支援する非営利団体「コミュニティ・ワーク・ゲント」が、郵便局の全面的な協力により、市民から住宅問題に関する質問を手紙で受け取る企画を実施し、ベンヤミンによる架空の家に届けられていた。

同じく、ベンヤミン・ファードンクによるパフォーマンスビデオも見せていただきました。

上記したプロジェクトのなかには、日本でも宝くじの収益金がアート活動(美術館とか)に使われているように、ロトによる助成を受けているものがあるそうです。

ベルリンのアート情報が聞けて大変充実した内容でした。



▲学生の質問に応じる かない氏


学生たちも質問したりと、興味津々だったと思います。


またベルリンの情報とは別に、レクチャーの最初に見せてくださった、かない氏が中学生のときに作成したノートには、驚きました。展覧会のチケットを貼り、ポストカードを買ってきてその作品について調べたことがまとめてありました。こうしたことが、今のかない氏につながっているのかもしれません。興味があることについて調べてまとめる・・・みなさんも、これからまねしてみてはいかがでしょうか。


それでは。





2012年11月6日火曜日

芸術表象論特講#12

こんにちは。 急にぐんと寒くなったので、研究室ではヒーターを倉庫から引っぱり出してきました。

10月31日におこなわれました、「芸術表象論特講」12回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、国立国際美術館館長の山梨俊夫氏でした。




山梨氏は以前、神奈川県立近代美術館の館長をされていました。2つの美術館の館長を歴任された立場から、「美術館で何が行われているか」、「運営の形」、「美術館に最近求められていること」、「美術領域での変化」、「問題点」という5つのトピックスに分けてお話ししてくださいました。

国立国際美術館は、1970年の日本万国博覧会のときに作られた万国美術館を活用して始まった美術館です。当時は立地の悪さからか、あまり人が来なかったそうですが、その後、2004年に現在の建物(中之島)へ移転したとのことです。出入口は地上にありますが、展示室は地下にあるというユニークな構造をしています。


それと、普通は聞くことの出来ないような“お金”にまつわる話もしてくださいました。営利を求めることは出来ないけれど、慈善事業ではないのでお金はかかる・・・。難しいところです。


▲北澤先生の質問に答える山梨氏


学芸員や美術館関係の仕事に就きたい学生には、かなり現実的な話かもしれませんが、大変貴重なお話で、勉強になったと思います。

国立国際美術館は大阪にありますので、ここからはちょっと遠いかもしれませんが、ちょうど、エル・グレコ展が開催されていますので、行ったことない方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。


それでは。