平成27年度 芸術表象論特講 #1
4月22日におこなわれた今年度最初の芸術表象論特講。
第1回目のゲストはアーティストの千田泰広さんです。
千田さんは「空間の知覚」と「体性感覚の変容」をテーマに、空間を実体化するインスタレーション作品を制作されています。
また、そのリサーチのために自らヒマラヤ登山やケービングなどのフィールドワークをされており、最近ではヨーロッパの様々な国を旅して回られています。
レクチャーの前半では、これまでに千田さんが横浜、東京、長野、名古屋などで制作された作品をスライドで観ながら解説をして頂き、レクチャーの後半では、ヨーロッパを旅して回った際の写真と共に、ル・コルビュジェやピーター・ズントー、ザラ・ハディトなど各地の建築について、千田さんが実際に目で観た感想を交えてお話して頂きました。
千田さんいわく、特に意識をして「美術」をやろうとしているのではなく、山の風景と美術館を同じように観ており、根源的なことを考えようとされているそうです。
自身でも一番お気に入りだという、2013年に軽井沢ニューアートミュージアムで展示されたインスタレーション作品「Myrkviðr」(ミュルクヴィズ)は、室内に数km分の釣り糸を張り巡らせてあり、その中央にはライトが付いた直径2mの金属製の輪が釣られ、その輪がゆっくりと回転していきます。展示室内の外周を歩く来場者と回転する輪に付けられた光源によって、周囲の釣り糸は天体のように光り、その輝きは刻々と変化していきます。
千田さんによる解説とレクチャーで上映された実際の展示風景の映像では、輪の周回のうち半分はライトが死角に隠れ、その際に展示室内から光が消える様は、まるで太陽と月そして地球の関係のようです。当時、数時間も作品を観ていた来場者の方が千田さんに「ライトが裏側に隠れ、光が消えてしまうと寂しくなるが、また光が出てくると嬉しい気持ちになり、その繰り返しでずっと観ていてしまう。」と感想を述べたエピソードが印象的でした。
また、千田さんは美術館などでの展示のほかに、舞台美術や演奏会の舞台演出にも携わられています。今回はそのうちの幾つかをスライドと共に解説して頂きました。普段ほとんど無いものとして認識されている譜面を宙に浮かせ光を当てる「Teleceptor」(2014年 両国・門天ホール)や、演奏者の周囲を回る光とデュオのソロパート中にもう一人が天井から吊られたグラスに染料を垂らすことでステージの照明色が変化していく「Bandneon x Guitar x Installation」(2015年 長野・Bar aquavitae)など、単に舞台を彩るオブジェや装置を作るだけではなく、演者と相互に影響を与えながら上演中にリアルタイムで変化していく演出は、観客・演者・空間の関係性について改めて考えされられます。
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幻想的な光景を来場者に観せながらも、その視覚効果だけに陥ることがなく、また余計な物語やストーリーを展開するのでもなく、「今この時も寄せて返す波のように、ただ聳え立つ山のように」と話される千田さんの感性と作品への取り組みは、後半に紹介して頂いた建築の世界と何処となく通じるものがあると思いました。また、限られた予算と時間の中で、機材や環境など当初想定していなかったアクシデントが起きた際に、そこで加える変更が「より良い方向へ」向かうように意識をしているというお話は、受講した学生にとって学科や専攻を超えた重要なアドバイスになったと思います。
千田さんの公式サイト。過去の作品や活動はこちらで観ることが出来ます。
http://www.chidayasuhiro.com/
2013年に千田さんがヒマラヤへ登った際の記録はこちらで読むことが出来ます。
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-7082.html
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