2014年8月28日木曜日

芸術表象論特講#14

こんにちは。急に肌寒くなって、あの暑い日はどこへ行ってしまったのでしょうか・・・。
7月23日におこなわれました、「芸術表象論特講」14回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストで本学准教授の大森悟先生でした。



大森先生は、洋画専攻の先生です。
これまでの作品を中心に、お話してくださいました。

小さい頃にオタマジャクシをこっそり飼育しようとして、冷凍庫に隠していたところ凍ってしまった。しかし取り出し解凍されると、泳ぎだしたそうです。どうやら、仮死状態になっていたようでした。もしかして、凍らせたりすると、ずっと生きながらえるのかな・・・と思ったそうです。
そんなエピソードから始まったレクチャーですが、これは、後に作品と関連していました。
冷凍庫の中に桜の花と青い鳥が冷凍保存され、照明で照らされています。「桜の花」は、別の作品にも使われているモチーフです。
桜は鑑賞の仕方が、他の花などの植物とは違っているとおっしゃいました。普段、花とかを見る場合には、少し離れたり横から見たりします。しかし、桜は不思議と下に入り込んで見る。見ているのは桜だけではなく、その後ろに広がる空も見ています。昼間だと青空で逆行になり花がかげるが、夜になると花はちょっとずつ白く感じるときもある。またあるとき、ふと桜が5枚の花びらをつけたまま、ぐるぐると回転しながら落ちてきた。どうも鳥がついばんだために落ちたようですが、それを見て、その形が面白いなと思い、花びらを収集して押花を作り始めます。結構しつこく作っていると、今度は量が欲しくなる。しかし収集している数では間に合わないので、夜に取りに行くようになります。暗いなかで収集していると、暗い地面に桜が浮いているように見え、それはまるで水面に漂う花のように見えたそうです。空を背景にした状況と地面のそれぞれの暗さに浮かぶ桜の状況が対になり、垂直の不思議な感覚に襲われたそうです。これらのことがヒントになり、作品の制作に影響していきます。

もうひとつ、作品に影響したことがありました。それは、大森先生の身内が亡くなったことでした。亡くなられた方に対して作品を見せようとして制作してきたことに気づいたため、作品を作る目的がなくなってしまい、どうしたらいいのか、わからなくなってしまったそうでした。しかし、絵を描くことで助けられたのだそうです。

また昨年は、上海にある女子美のギャラリーで展示をしたそうです。
その時は、現地で調達した梱包材(プチプチ)を繋ぎ合わせスクリーンのようにし、そこにグリーンレーザー水平器からの光を照射しました。梱包材は、もともとは日本で提供してもらったものを持って行くつもりでいたそうですが、それが叶わず、やむを得ずに現地調達したそうです。中国の梱包材は日本のものとは違って、空気が入っている部分が柔らかく、一度きりの使用にしか耐えられないものでした。繋ぎ合わせた梱包材は風にゆらされ、照射された光が波のように動きます。作品を写真で見せてくださいましたが、写真ではグリーンの線状のものが会場にあるように写っているのですが、実際には梱包材の空気の部分が一つひとつキラキラ光っていたそうです。とても不思議な空間になっており、1時間くらいずーっと見ている人もいたそうです。

グリーンレーザー水平器の他の作品としては、同じく昨年、銀座のギャラリーで開催されたものがあります。ギャラリーの少し高めの位置に、鏡を同じ間隔で並べていき、その鏡にグリーンレーザーを照射します。一見すると、ぐるーっとグリーンの線に囲まれているようになるそうです。どうなっているのかと鏡を覗き込もうとすると、向こう側にも鏡がありそれが映って見えます。さらに、光源がわからないように、光の中に埋もれるかのように計算して設置してあるために、どこから光が来ているのかわからない。それ以外に何もない、けれど何かあるということを感じる空間になっているそうです。大森先生は、星の輝きを見ていることと同じことを再現しており、光は私たちに見えるまでに時間のずれがあるということを体験する空間にしている。今と過去と未来を繋いでいる、時間の問題を表現されているとおっしゃっていました。

他のグリーンレーザーの作品や、博士課程の修了制作も見せていただきました。
普段、特に洋画専攻以外の学生は先生の作品などに触れる機会がすくないため、新鮮だっとと思います。大森先生の作品は空間そのものも作品のひとつであることから、次回展示があるときにはこのレクチャーを思い出すと、より先生がおっしゃっていたことが深まるのではないでしょうか。


ここから、作品の一部を映像で見ることができます。

大森先生のレクチャーをもちまして、前期は終了致しました。次回は後期、9月に入ってからとなります。それでは。

芸術表象論特講#13

こんにちは。大学は、短い夏休みの真っ只中です。
7月16日におこなわれました、「芸術表象論特講」13回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、演劇ユニットの二十二会でした。

▲左から渡辺さん、遠藤さん

二十二会は、遠藤麻衣さんと渡辺美帆子さんによる演劇ユニットです。昨年の春頃から活動を始めました。

遠藤さんは、東京藝術大学の学部時代は油画専攻に所属し、大学院では美術研究科壁画第一中村政人研究室に所属されていました。大学1年生の時から先端芸術表現科の同級生たちと一緒に、劇団200億を立ち上げました。学部を卒業して大学院へ進学したころから、個人制作していたものがパフォーマンスの形態へ変化したそうです。遠藤さんが演技を始めたのは、演技をするというのは、演技をしようとしている対象の人に自分が近づく行為であり、その人の気持ちなどを外から見るのではなく、その人の内側に入って行って親密になりたい・・・。そういうところからきているとおっしゃっていました。大学院を修了し、渡辺さんとこの演劇ユニットを立ち上げました。

渡辺さんは、日本大学芸術学部演劇学科演出コースを卒業されています。翻訳劇を中心におこなってきていたある日、台本を使わなくても、今、私たちが暮らしている私たちの声を演劇として舞台にあげるにはどうしたらいいのか、と考えるようになり、そこから翻訳劇ではない演劇の形を模索します。そして考えた作品に出演したのが、遠藤さんでした。
このことがきっかけで、2人は二十二会を結成することになります。
具体的には、2013年3月くらいにあったフェスティバル東京の公演プログラムの募集に出してみようというのが、結成のきっかけなんだそうです。一次審査は通過しましたが、最終審査で惜しくも落選してしまったとのことです。

同じ2013年、BankARTのレジデンスプログラム企画「Artist in Residence OPEN SUTUDIO 2013」に参加し、その成果として《目に殴られた》という作品を公開しました。この作品は、お客さん1人のための演劇作品となっており、役者がいるけれど見ることが出来ない・・・いわゆる演劇作品というものではなかったそうです。この作品は、演劇を鑑賞する構造の中で、視野や視覚というものが自覚的であったり無自覚的であったり、どういうことになっているのか、ということをそこだけ抜き出して見てみたいと思ったのが動機なんだそうです。渡辺さんは、演劇を見に行ったときにどうしてもつまらない作品に出会ってしまったとき、楽しく見るコツを編み出しました。それは、俳優の膝から下しか見ないようにすることです。そうすることで、どんなにつまらないお芝居であっても楽しく感じられるようになるのだとか。その経験も、《目に殴られた》の作品を作る際に含まれたそうです。

《へんなうごきサイファー》は3月に開催された「北千住フライングオーケストラ 縁日」にて上演された作品です。これは、教室で実演していただきました。2人が、自身の体のいたるところに大小の鏡をテープで貼付けています。そして、それぞれが互いの鏡に写ろうと様々な動きをします。二十二会の2人がおこなった後、学生たちも持参した鏡を体に貼付けてやってみました。

二十二会は結成以後、お客さんに参加してもらう作品が多く、演劇はお客さんに見てもらうものが多いものとされながら、そういう作品を作ってきていません。こうしたとき、お客さんに見てもらえる作品は何だろうと考えたとき、ずっと見ていられる、見応えのある体とは何だろうと考えたそうです。今は物理的に体には外圧がかかっていて、そして時間軸の中である切り取られた部分だけをお客さんに開示されるのだけれど、そのせいで切り取られた前後の文脈はわからなくなっている。そのわからない前後の文脈に想像力が働く状態が、見応えのある状態になるのではないかと、おっしゃっていました。

今後は、鏡を使い、ダンスの作品や見応えのある体についても考えていきたいとのことでした。

最後に、「違う人の化粧品を使ってみる」というワークショップを実施しました。事前に学生たちには、自分が日頃使っている化粧品を持ってくるという指示が出ていました。6名の学生たちが2人ペアになって、互いの化粧品で化粧をするということをしてもらいました。周りにいた学生にも遠藤さんがペアを決めてやってもらいました。もちろん、二十二会の2人も参加していました。



演劇といえば、役者がいて彼らが演じているのを客席で見るスタイルを思いがちです。しかし、二十二会の2人がおこなっているのは、そうしたスタイルではない演劇でした。表現をするということは、固定された何かだけではなく、疑問を持って新しく作り出すことも大切であることを、学生たちは感じ取ったのではないでしょうか。今度は、実際に作品を見に行って欲しいと思います。


二十二会のイベントなどは、こちらから確認できます。
二十二会Facebook

遠藤麻衣さんHP

渡辺美帆子さんHP


それでは。