こんにちは。雲の様子が地域で違うのを見て、びっくりしています。
6月25日におこなわれました、「芸術表象論特講」10回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストのAya Koretzkyさんでした。
Ayaさんは東京生まれで、お父さんが日本人、お母さんがベルギー人です。1992年に両親がポルトガルへ移住することを決め、それ以降はポルトガルに住んできました。
リスボンの芸術大学では絵をはじめ、写真やドキュメンタリーなどの手法も習ったそうです。在学中ビデオアートや写真の作品を作り、映画の授業で先生に作品を評価してもらったことがきっかけで、映画の表現をしていきたいと思ったといいます。
卒業後、最初はドキュメンタリー、その後は違う映画監督と仕事をし、さまざまな作品に参加しました。撮影から編集、色補正といった技術を、所属していた会社で学びました。
映画という手法を使うのは、最初に先生に作品が褒められたこと、これまで写真やビデオで表現したことを入れることが出来るということが気に入っていること、そしてAyaさんが言いたいことがすべてが映画の中に入れることができるからだとおっしゃっていました。
レクチャーでは、Ayaさんの作品「山の彼方」を少しずつ見せていただきました。
この作品は、Ayaさん一家のポルトガル移住が軸になっている作品です。
はじめから、自身を題材にした作品を作るつもりはなかったそうです。2007年、別の撮影のために渋谷を訪れていました。そのとき、幼い時の思い出を撮影したいという気分で、日本人の兄妹を撮影していきました。1ヶ月間の撮影を終え、ポルトガルへ戻り編集作業に取りかかりました。その作業の際に編集をしてくれた人から、どうしてこの映画を作りたいのか尋ねられたそうです。その質問がAyaさんの心に引っかかり、どうしようか悩んだ末、自分に対してもっとはっきりしたほうが良いと思い、プロジェクトを思い切って変更しました。それまで撮影していたプロジェクトでテレビ局に助成金を申請していたのですが、変更することが自分の正しい道だと思い、ディレクターに思い切って説明したところ許可を貰うことができ、映画を作ることが出来るようになったそうです。
「山の彼方」はドイツの詩人カール・プッセの「山のあなた」からきているそうです。ポルトガルへ移住したため、それ以降Ayaさんにとって日本との関係はお父さんでした。お父さんに教えてもらったのが「山のあなた」で、よく一緒に歌っていたとのことです。
実際には見ませんでしたが、映画の最後にはAyaさんのお父さんが「山のあなた」を歌っているそうです。
撮影は1人でおこない、カメラの上にマイクをセット。ときどき手伝ってもらったとおっしゃっていましたが、ほとんど1人でこなしたそうです。音楽も、親しみを出すためにAyaさん自身がピアノを弾いたり、手紙の朗読をしています。
この作品は、自分の真実を探すために作ったとおっしゃっていました。制作している間に、ロシアの映画監督タルコフスキーの本の中に、「どの芸術家でも真実を探している。それが本当の芸術家でなければならない」と記されていたそうです。このフレーズはAyaさんにとってとても大切で、いろんな“なぜ”を探さなければならないと思わせてくれているそうです。Ayaさんのこれまでの人生の中で何が一番引っかかっているのかを考えたときに、日本から出てなぜポルトガルへ移住したのか、おばあさんや小学校の友だちと別れなければならなかったのか・・・。
この映画は、自己心理分析的な、そのような作品となりました。自分の考えること感じることが、人生に対してとても役にたったそうです。この映画を作ることは自分にとってだけではなく、自身の両親にとっても大事なこととなりました。この制作のために、今まで聞けなかったことを、制作を理由にして聞くことができたからだとおっしゃっていました。
作品は、さまざまなフェスティバルに呼ばれ賞も8個頂いたそうです。そうして選ばれるということだけではなく、見た人たちが直接話にきたり、暖かい言葉をかけてくれたこと、国籍とかを越えて、見た人が自身のことにも見えたと言っていたりしたそうです。映画がいろんな人に気持ちをわかってくれるということが、とても大事だとAyaさんはおっしゃいました。
今後は、自身のおじいさん(ロシア系)がどういうふうにロシアを出て、どのような道のりをたどったのか。おじいさんはロシアを出てから、お母さん(Ayaさんの曾祖母)と手紙のやりとりをしていただけで、二度と再会することはありませんでした。残された手紙などをもとに映画を作りたいとおっしゃっていました。
自身の人生で引っかかっていたことを、制作を通して知っていくことは、簡単なことではありません。わかることがすべて、良いことだとは限らないものです。Ayaさんは、自分と向き合う作品を作ることがこんなにも難しいとは思ってもみなかった、というようなことをおっしゃっていました。それだけ、自分と向き合い形にすることは大変なことでもあることを、学生も感じたのではないでしょうか。
ここから「山の彼方」が少しだけ見れます。
それでは。
0 件のコメント:
コメントを投稿