2015年2月17日火曜日

芸術表象論特講#23

こんにちは。すごく寒いな・・・と思ったら雪がちらついていました。
12月3日におこなわれました、「芸術表象論特講」23回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、編集者の清水芳郎さんでした。



清水さんは小学館の編集者をしており、現在刊行中の『日本美術全集』をご担当されています。
『日本美術全集』の刊行は、小学館ではほぼ50年ぶりになるそうです。この刊行は、小学館創業90周年記念事業として企画されました。前回のレクチャーで「美術全集」の歴史をお話してくださった太田智己さんは、この『日本美術全集』の月報を執筆されています。

清水さんには、編集者について、ご自身の体験を踏まえながらお話して頂きました。

清水さんは、小学館のなかでも出版局という部署で働いています。この部署は美術・歴史・音楽に軸足を置いており、編集者1人1人が1冊を作り上げる作業をしています。雑誌の編集部ですと、
例えばファッション誌には、10~12人くらいの編集者がいて、それぞれがページを受け持っています。編集者それぞれによる作業の集積として雑誌が出来あがるというわけです。しかし、書籍になるとそうはいきません。すべて1人で面倒を見なくてはいけないそうです。例えば『日本美術全集』では、全20巻の一巻一巻は1人の編集者が担当し、監修者やデザイナーとのやり取りをおこないます。それをとりまとめ、いろいろなところに気をつかいながら、すべての進行を司って進めていかなくてはなりません。一応、役職というものはありますが、1人1人が編集長的な振る舞いをしなければ出来ないそうです。責任やその自覚を持って進んでいかないと本が出来上がりません。しかし雑誌は違います。雑誌は、1人の編集長が存在し、その人の権限が強いのです(逆にその人の責任も大きいということになります)。
また雑誌の編集となると、編集長がページをどう作るかということをそれぞれに指示していくため、決まったプランにそって作り上げなければならない。ルーティンワークになっていくことも多いので、その中で自分のクリエイティビティをいかに出していくか、他の編集者や他誌と違ったページをどのように作るか、ということがモチベーションになる。
それが書籍、単行本などになると、自分で企画書を書いて会社を説得させ認めさせるところから始めなくてはならない。何を本にしたいかという考えや思いを成熟させていくという作業が必要となる。編集者は24時間、会社にいる時以外でも企画を考えるもの。だから心底自由がないな・・・と思ったりもする。その一方で、自分が気づいたことが本になるということは、編集者としてはこれ以上の喜びはない、と清水さんはおっしゃっていました。
レクチャーでは、清水さんの先輩が実際に作成された企画書を見せてくださいました。編集者にとっては、企画書が勝負所。企画書でいかに本の形を伝えるか、それがきちんと書けているかと自分自身に自問自答しながら書いていることがあるそうです。それが上手く書けると、会社の人たちを説得しやすくなるそうです。しかし、編集者がいくら良いと思っていても、営業会議で売れないと言われてしまってはなんともならず、ここでだめになってしまうこともあるそうです。

もし、編集者などのエディターを目指している学生がいたら、自分の性向や会社のことをよく調べておいた方が良いとおっしゃっていました。また、自分ならではの「思い」がどういうところにあるか、読者に確実に深い話を届けるという方法もあるし、より多くの人々に解釈者というかインタープリンターというか、自分をフィルターと化して本にまとめて届けるという仕事もある。個々人の志向性や目指すところによって会社を選ぶのが大事であると思う。単にその会社の規模で選んだりすると、ちょっと違ったかな・・・と思うことになるので、よく調べて考えた方が良いとアドバイスしてくださいました。

清水さんは、小学館へ来る前に2つの出版社に所属されていました。最初は『暮しの手帖』を刊行している暮しの手帖社でした。『暮しの手帖』は1948年に創刊され、花森安治が編集長で有名な雑誌です(現在は違う方になっています)。清水さんが入社した頃、この出版社では10年ぶりの新入社員だったそうです。初めての仕事は、当時『暮しの手帖』が支柱としていた「商品テスト」のに載せるベビーカーの様々な性能測定作業でした。この出版社で、清水さんの社会人として、編集者としての基盤が培われたそうです。


雑誌と書籍における編集作業の違いから、ご自身が携わってきた書籍、最初に入社した暮しの手帖社での出来事など、様々なことをお話してくださいました。これから社会へ出る学生たちに対しての職業選択のアドバイスなどもしてくださいました。これからの進路を考える時に、清水さんのこのレクチャーを思い出して欲しいと思います。


小学館HP
現在刊行中の『日本美術全集』についてはこちら


それでは。

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