2014年7月11日金曜日

芸術表象論特講#9

こんにちは。建物の外へ出ると、すごく暑くてびっくりします。
6月18日におこなわれました、「芸術表象論特講」9回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、杉田敦先生(本学教授)でした。



杉田先生は、1週間ほどポルトガルを訪れていたそうです。
レクチャーでは、杉田先生とポルトガルについてお話していただきました。

先生には、ポルトガルに関する紀行本があります。『白い街へ リスボン、路の果てるところ』(彩流社、2002)と『アソーレス、孤島の群島 ポルトガルの最果てへの旅』(彩流社、2005)です。2010年、日本ポルトガル修好150周年を記念して、両国の交流に功績のあった日本人へ勲章が贈られました。杉田先生は、ポルトガル美術を紹介した功績が認められて、"de Ordem do Merito"(メリト勲章)を叙勲されました。実際に頂いた勲章をこの日は持ってきていただき、学生たちに見せていただきました。

杉田先生はこれまで、20年で30回程ポルトガルを訪れているそうです。そのきっかけは、ある映画でした。それは、「白い町で」(1986)という映画です。この映画は、ブルーノ・ガンツ(後に「ベルリン・天使の詩」で有名になります)が扮する乗組員の貨物船が、ポルトガルのリスボンに流れ着く。乗組員は町へ降りていき、そのまま町へと飲み込まれてしまう。乗組員は動画を自撮りしながら歩いているので、時折その映像が映し出されます。この町への見込まれるシーンがとても魅力的だと、杉田先生はおっしゃっていました。

この映画を見てから、なんとなくポルトガルへ行ってみたいと思ったのが最初だったそうです。実際に訪れてみると、いくつか気になるものに出くわしました。まずは、町の白い壁にある帽子をかぶった男の人のシルエットのグラフティが、いくつもあることでした。今はそんなにないようですが、先生が訪れだした初期の頃は、よく見かけたそうです。この人物は、フェルナンド・ペソナといい、ポルトガル出身の詩人・作家で20世紀初頭に活躍していました。彼のすごいところは、60あるペンネームを使い分けて詩や文章を発表していたことです。それも、ただの名前ではなく、名前1つひとつに誕生日、職業などの人格的要素が決められていたことです。彼は、現代の哲学者たちに影響を与えました。
次に建築です。ポルトガルには、実に魅力的な建築が多く存在しているそうです。その中でも、アルヴァロ・シザの建築に出会いました。そして、彼の展覧会をしたいと思い、横浜のポートサイトギャラリーで実際に開催したそうです。当時は面識の無かったアルヴァロ・シザに建築家としてではなく1人のアーティストとして展覧会をしたいと手紙を書きました。ぜひやろうと返事があり、先生はアルヴァロ・シザの事務所へ通い、膨大なドローイングを選定し日本へ運んだそうです。
こうしたアーティストたちの存在や作品を知っていくことで、また別の展覧会を開催するにいたります。

2010年、女子美アートミュージアムJAMで「ポルトガル現代美術展ー極小航海時代ー」という展覧会を杉田先生は企画されました。作品を持ってくるのは大変なので、主に映像作品を展示しました。展覧会のタイトル“極小航海時代”としたのは、かつて大航海時代を築いてしまったコロンブスやマゼランとかが、日本のイメージとは違いポルトガルやスペインではタブーとされあまり触れられて欲しくない状況にあり、それを少しもじったそうです。この展覧会は韓国総合芸術大学の美術館へ巡回しました。関連企画として、出品アーティストのジョアン・タバラや映画監督のペドロ・コスタに女子美へ来ていただきました。


杉田先生は、以前からポルトガルの写真を撮っていたそうで、澁谷のパルコにあるロゴスギャラリーから、写真の展覧会と出版をしませんかと話があり、モノクロ写真の展示をしたそうです。この後、オルタナティヴなスペースでも展示がしたいと思い、写真を一回りサイズダウンさせ、2点ほど額装して、『白い街』を装幀家に頼んで豪華本にしてもらったものを展示したそうです。そして、今年度中に写真集を出版する予定になっているため、その撮影も兼ねて今回ポルトガルを訪れたとおっしゃっていました。

なんとなく吸い込まれて、どんどん奥へ行ってしまうような、そんな町がポルトガルのリスボンなんだそうです。見せていただいた映像の中にあった、狭い住宅の間を縫うように走っている路面電車など、どことなく不思議な魅力を感じます。杉田先生は、他の文化とふれあうことは自分自身が成長できることだと思う、無理して行くことはないけれど、訪れたときに学ぼうとするのではなく、呼吸するかのようにしてほしいと思うと、おっしゃっていました。これから外へ出て行く学生も、その予定が未定の学生も、自国以外の文化によりそう大切さを知れてたのではないでしょうか。


杉田先生の紀行本についてはこちら
『白い街へ リスボン、路の果てるところ』
『アソーレス、孤島の群島 ポルトガルの最果てへの旅』


それでは。

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