2014年7月22日火曜日

芸術表象論特講#11

こんにちは。大学に住んでいたツバメたちが巣だってしまい、なんだかさみしいです。
7月2日におこなわれました、「芸術表象論特講」11回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、神奈川芸術文化財団学芸員の中野仁詞さんでした。



中野さんは、先日発表された2015年開催の第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の指名コンペティションにて日本館キュレーターに選出されました。レクチャーでは、ヴェネチア・ビエンナーレのコンペティションだけではなくこれまでの活動も含めてお話してくださいました。

中野さんは1999年から神奈川芸術文化財団に勤務しています。それ以前は、そごう美術館に勤務されていたそうです。演劇部門を担当した後、神奈川県立音楽堂で音楽事業制作を経て、2006年より県民ホールギャラリーを担当。初めての現代美術の展覧会企画は、塩田千春さんの個展「沈黙から」(2007)でした。塩田さんといえば、沢山の糸を空間に張り巡らすインスタレーション作品などがあります。もともと、音楽堂で勤務をしていた頃、塩田さんの美術作品と文楽を用いてシンプルなオペラ形式の演目をおこなえないかと、塩田さんと一緒に考えていました。その後、企画を進めていく中で県民ホールギャラリーへ転属となります。場所は変わってしまいましたが、美術の分野で何かできないかと考えたのが個展だったそうです。この展覧会のお手伝いとして、女子美生が関わることになります。きっかけは、年に1回開催される神奈川県美術展という大規模な公募展でした。その搬入に女子美の立体アートの学生たちがトラックでやって来たので、知り合いの非常勤講師の方に協力をお願いして先生に引き合わせてもらい、立体アートの学生を中心に展覧会を手伝ってもらったそうです。この展覧会以降、女子美の学生が企画展のお手伝いをさせていただくようになりました。参加学生の中には、毎年参加する学生もいたそうです。県民ホールギャラリーで企画展をおこなうときは、舞台の美術さんや大道具さんといった方々と展覧会を作り上げるそうです。パフォーミングアーツの世界では、会場を1日単位で利用することが多くあります。そのため、限られた時間の中で、トラックで資材を会場へ運送し、大道具を組み立てて、公演が終わればそれをばらしてトラックへ積み込まなくてはなりません。こういった経験を積んだ舞台の方々は、段取りの組み方が非常に上手く、また現代作家の要望に応えようとする柔軟さがあるそうです。

ヴェネチア・ビエンナーレのコンペティションについて、参加の経緯や、企画などもお話してくださいました。
ヴェネチア・ビエンナーレは、イタリアのヴェネチアで開催される芸術の祭典です。音楽、映画、演劇、建築、美術といった部門に分かれています。日本が美術展に公式に参加するようになったのは、1952年からです。展覧会は各国で所有している建物に展示をします(ただし、所有していない国もあります)。日本館のキュレーターを決めるのは、国際交流基金です。
国際交流基金には、国際展事業委員会というのがあります。まず、委員6名が選んだキュレーターに対して、「コンペ参加者に選出されましたので○月○日までに企画書を提出してください」と連絡が届くそうです。その企画書は、2ヶ月ほどで作成しなくてはならず、企画を作る時に時間をかける中野さんは、とても大変だったそうです。自分以外に誰が選出されたのかは伏せられており、プレゼンテーションの際も他のキュレーターとの時間をずらすなどされ、最終結果が出るまで極秘事項となっていました。中野さんと塩田さんは、誰が選出されているかを想像しあったそうです。

中野さんは、短い期間で企画を考えなければならない状況で作家を選ぶとき、付き合いが長くてお互いがわかり合えている人とやりたいと思ったそうです。作家とキュレーターの関係は、得意とするところとそうではないところ、お互いが補填し合うことが大事だそうです。展示空間をどう捉えているかも作家とキュレーターでは違うので、お互いが十分に話し合ってやっていくのが重要だとおっしゃっていました。それに合っていたのが、塩田千春さんだったようです。

提示した企画「《掌の鍵》- The Key in the Hand-」展は、鍵と赤い糸を用いたインスタレーションとなっています。
作品の根底には「人とのつながり」があります。今回は、震災の後ということもあり、塩田さんのテーマである「人とのつながり」と、「生と死」をコンセプトに展覧会を企画されました。震災を経た現在、「生と死」となると、「死」ばかりに注目されたり、暗い部分が強調されてしまうのではないかという懸念がありました。しかし、塩田さん自身が身近な人を亡くしているということもあり、「死」の体験をバネに「生」を感じることのできる力強い作品に出来るのではないか。赤い糸も、暗いイメージだけでなく、「人とのつながり」を表すモチーフになるのではないかと考えたそうです。
実際には、天井から大量の赤い糸を吊り下げて、その先に人が使っていた鍵を結びつけます。下には私たちの掌を表した2艘の舟があり、天からそそがれる温もりや記憶をもった大切な鍵を受け止めます。鍵を受け止めた舟は記憶の中を進んで行きます。地下のピロティには、子どもの手が鍵を持った写真と、幼い子どもたちに生れてくるときの話を尋ねた映像を投映する予定だそうです。地下のこれから記憶を積み重ねて行く子どもたちが、1階の数多の記憶を支えているということを表現しているのだそうです。


今回のレクチャーで、空間に囚われず作家の作品の持ち味を引き出すキュレーターの仕事を垣間見れたのではないでしょうか。来年のヴェネチア・ビエンナーレが楽しみです。現地に行ける学生は、是非その眼で見て体感してもらいたいと思います。



公益法人 神奈川芸術文化財団

ヴェネチア・ビエンナーレについて詳しいことはこちら
国際交流基金
※実際にコンペティションに提出した企画書(全選出者分)が公開されています。

「《掌の鍵》- The Key in the Hand-」展で使用する鍵を集めています。
※不要になった鍵に限ります。詳しくはこちらでご確認ください。

それでは。

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