2014年5月22日木曜日

芸術表象論特講#4

こんにちは。暑い日が続くので、クローゼットにある衣類をとうとう衣替えしました。
5月14日におこなわれました、「芸術表象論特講」4回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、編集者・批評家である藤原ちからさんでした。



藤原さんは、小劇場の演劇を見て批評を書くことが多いそうです。
もともと演劇をしていたとかではなく、小説の書評などを扱うような出版社で編集者をしていました。そのうち、成り行きで若い演出家家の人たちから雑誌を作りたいと相談されて、現場に入っていくうちに、当時の20代の作家たちが既存の演劇批評の中でほとんど評価されていないことに気づきます。その状況はまずいのではないか、彼らの魅力を言葉にしなくては・・・。それが演劇批評を書くきっかけだったそうです。演劇といっても様々な種類がありますが、藤原さんは主に小さな劇場でおこなわれている若手作家の実験的・先鋭的な作品を観ることが多いそうです。

レクチャーでは、いくつかの演劇の映像を見せていただき、解説していただきました。
チェルフィッチュの「三月の5日間」は、第49回岸田國士戯曲賞受賞作品です。賞を獲っただけではなく、若い作り手たちに大きな影響を与えた作品でもあります。例えば、作家が書いたテキストの役を演じてその物語をみなさんの目の前で上演する、というのが演劇のオーソドックスなスタイル。しかし、チェルフィッチュは、言葉と体の動きがリンクせず、しゃべりながら役が変わっていき、1人1役という原則が崩れていく。発せられる言葉もだらだらした若者言葉を使っている。
チェルフィッチュの出現以後、その手法を真似したり、それを発展させようとする演劇が2000年代後半になるとシーンの中核を占めるようになりました。

柴幸男/ままごとの「反復かつ連続」は、一見すると1人芝居のようですが、音楽の編集ソフトに見られるような「トラック」の概念を使って演出しています。Act1でおこなったことを録音して、次のAct2のときに流し、またそれを重ねて録音してを繰り返す。最後のActで全体像がみえるようになる、そういった構造になっています。柴幸男さんは、構造的な発想を使った演出が得意らしく、音楽の概念を導入した新しい方法を次々と試していったそうです。

その他、範宙遊泳の「さよなら日本ー瞑想のまま眠りたいー」とQの「プール」を少し見せていただきました。

演劇は多くの場合、その空間にいかないと意味がありません。小劇場では80~100分くらいが上演時間の目安で、一度始まったら終わるまで、その場を出る事は難しくなります。海外ではつまらなければ外に出て行くお客さんがいるのがあたりまえだといいますが、日本ではほとんどの場合、我慢して最後まで観るケースがほとんどです。しかし、その場に行かないと見られないし、一定時間拘束される、という条件が演劇の面白さを生み出している面もあると藤原さんはおっしゃいました。例えば、美術のインスタレーションなどでは、いつでもすぐに立ち去ることができますが、演劇はそう簡単に立ち去ることができない。そこが面白いと思っていたそうです。ですが、最近は、劇場の中で生まれる演劇の強度も魅力的ではあるけれど、劇場という場所に囚われないで、演劇の力をもって街の中に繰り出していくことにも興味があるとも、おっしゃいました。

最近は、横浜の黄金町内にできた「演劇センターF」の立ち上げに参加されているそうです。
この演劇センターFは、「であう/まざる/めぐる演劇」を掲げて4月にオープンしました。一般的に持たれている演劇のイメージに対して、演劇はそれだけではないですよと、その可能性をひろげていくような活動をされているそうです。

藤原さんは京急電鉄の黄金町駅の少し先に住んでいます。このあたりから、東京のアート文化圏の影響力が消えるのではないかと思っているそうです。その先になにがあるかというと、金沢八景、横須賀、逗子、などのある三浦半島が存在します。三浦半島が持っている土地の力やそこに生きている人たちの生活文化に興味があるのだともおっしゃいました。

黄金町あたりから、東京のアート文化圏と、三浦半島にある一種の土着的なものが拮抗している気がしているそうです。仮にアートが三浦半島と戦っても負けるだろうと・・・。でも、戦って破れて負けるというのはドン・キ・ホーテ的ではあるけれど、そうした失敗や敗北には意味があるはずだと思うそうです。現代演劇が演出の方法論において発展・更新していった結果、失敗を恐れるような状況が生まれてしまっているのではないか。演劇に限らず、創作においては、自分がコントロール不可能なものとぶつかってチャレンジすることで得られるものはきっとあるはずだとおっしゃっていました。


レクチャーでは、藤原さんと杉田先生が途中で学生の中に混じって座りトークをしたり、芸術表象専攻の授業を担当している良知暁先生と井上文雄先生にも、途中から2人のトークに参加してもらいました。

▲左から、井上先生・杉田先生・藤原さん・良知先生

「演劇の世界/美術の世界」と線を引くのではなく、創造する、表現することは同じです。藤原さんがご紹介してくださった若い劇団は、学生たちからしたら少し上の年代かもしれませんが、決して遠い存在ではないと思います。これまで見たことのあった学生も、見たことのなかった学生も、演劇を体験してみたら新しい何かが得られるかもしれません。

演劇センターFは当初からの約束によって、6月いっぱいで現在の場所から退去して、同じ黄金町の中の新しい拠点へと移るそうです。点々と、様々なところに出現しうるようなモビリティのある拠点をつくりたいのだとおっしゃっていました。ぜひ訪ねてみてください。


BricolaQ(藤原さんが主宰するラボラトリー&メディア)

演劇センターF

『演劇最強論』

blanClass×演劇センターF共同企画による遊歩演劇、BricolaQ「演劇クエスト・京急文月編」が7月におこなわれます。詳しいことは、こちらのサイトで(blanClass)



それでは。

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