2012年12月18日火曜日

芸術表象論特講#18

こんにちは。街のイルミネーションがきれいな時期になってきました。

12月12日におこなわれました、「芸術表象論特講」18回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、アーティストの良知暁氏でした。





「投票」と「質問」とエトセトラというタイトルで、いろいろお話してくださいました。

もともと、大学までは美術に興味を持っていなかったという良知氏。美術を学ぶため、イギリスに留学しました。留学先の学校にある展示スペースで、作品の鑑賞用に配布されていた3Dメガネ(フレームが紙で、レンズが青と赤のあれです)を持って、ギルバート&ジョージの作品を見に行った体験談をお話ししてくださいました。

自身の作品について、ビルの上にある広告板と、選挙のポスターを貼る看板を撮影していたことについてお話してくださいました。そのほか、震災時の記憶を忘れてしまうのではないか。という疑念から、ラジオから聞こえていた「30キロ圏内」という距離を歩くことで得られた身体の疲労という生理的な現象を、記録メディアにできないかと考えようとしたそうです。

また、トークイベントやシンポジウムでの質問を、手を挙げることで、誰もがパフォーマンスの時間を与えられるメディアとして考えてみたり、ご自身でも、そうした場所で質問をするのだとおっしゃっていました。「質問をするためのメモ」を取るようになった良知氏。スライドでいくつかノートのメモを見せていただきました。トークイベントやシンポジウムに行ったとき、メモを取ったりしますが、案外あとで見ないことが多いのではないでしょうか。目的を持って取ると、聞く姿勢も違ってくるのかなと、思いました。みなさんも、試されてはいかがでしょうか。


▲メモについて説明する良知氏


良知氏の活動についてのお話は、当たり前のようなことに対して疑問を持ち、違う視点を提示していただいたような気がしました。

それでは。

芸術表象論特講#17

こんにちは。最近の朝、畑の一面に霜がおりているのを発見しました。

12月5日におこなわれました、「芸術表象論特講」17回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、編集者の橋本愛樹氏でした。


橋本氏は、「ブリュッケ」という出版社をひとりで経営しています。
ブリュッケの出版物といえば、芸術表象専攻の北澤憲昭先生の著作(『眼の神殿―「美術」受容史ノート[定本]』や『境界の美術史―「美術」形成史ノート[新装版]』ほか)、本学で教鞭をとられている藤原えりみ先生や、足立元先生の著作があります(シンシア・フリーランド(藤原えりみ訳)『でも、これがアートなの?芸術理論入門』、足立元『前衛の遺伝子―アナキズムから戦後美術へ』)。

レクチャーでは、編集業を中心にお話してくださいました。

橋本氏は、ブリュッケを立ち上げて17年ほど、編集者生活は40数年になるといいます。
仕事としては、DTP(Desktop publishing)の状態で、ほとんどの仕事を橋本氏がおこなっているそうです。カバーの装丁もご自身でデザインされているとか。

本は、著者がいなくてもつくることができます。その例として、橋本氏が過去に驚いたという、小学館が出版した『日本国憲法』についてお話してくださいました。日本人が自国の憲法を知らなすぎるということから出版されたそうで、ミリオンセラー近くまで行ったそうです。なかは、文字を大きくし、バックに富士の写真をあしらうなどグラフィックな作りをしているそうです。

「本を作るということは、どう料理するのかと同じこと」という橋本氏。

学生たちに対して、電子書籍が出始めているのもあり、ひとりで出版社をするという進路の選択もありなのではないか、この世界にどんどん入って来て欲しいとおっしゃっていました。

編集業につきたい学生たちは特に、今後を決めるのに良い刺激になったのではないかと思います。


それでは。





2012年12月4日火曜日

芸術表象論特講#16

こんにちは。今年もあと1ヶ月となりました。

11月28日におこなわれました、「芸術表象論特講」16回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、日本画家の山本直彰氏でした。




山本氏は、愛知県立芸術大学の出身です。レクチャーでは、学生時代から山本氏に多大な影響を与えた、日本画家の片岡球子先生についてお話してくださいました。片岡先生は本学の名誉教授でもあります。

最初に歴史資料室よりお借りした、女子美100周年記念に作成された「先輩からのメッセージ」というVTRから、片岡先生のパートを(先生の話しているところを中心に)見ました。

片岡球子先生は1905年、北海道(札幌市)出身。1926年、女子美術学校つまり現在の女子美術大学を卒業しました。卒業後は画家として歩み始めますが、生計を立てるために横浜で小学校の先生をしながら制作活動をしていました。日本美術院展に10回連続で落選した後、1930年に初入選を果たします。当時、公募展に入選すれば作家として認められるものでしたので、10回連続で落選していた片岡先生には、みんな近づかないようにしていたといいます。
1967年、サンパウロ・ビエンナーレに出品。1975年、《面構》(前年の院展に出品)が日本芸術院恩賜賞を受賞。1989年には、文化勲章を受章しています。2008年、103歳で亡くなりました。


片岡先生と言えば、富士の作品や、歴史上の人物を主題とした面構(つらがまえ)シリーズが有名です。晩年は、裸婦シリーズを制作していたそうです。

片岡先生は、約40年間に渡り愛知県立芸術大学の先生として多くの学生を育て、その中に山本氏もいました。100歳になっても、タクシーで通っていたというのですから、驚きです。


「女子美の学生に片岡先生のことを知ってもらいたい」という山本氏は、片岡先生のエピソードをいろいろ語ってくださいました。



▲片岡先生の作品について語る山本氏


片岡先生から、「絵描きとは何かを身をもって知らされた」という山本氏。「絵を描くことは生半可なことではない」という言葉は、鋭く学生たちを射貫き、目覚めさせてくれたのではないでしょうか。

それでは。






2012年11月28日水曜日

芸術表象論特講#15


こんにちは。厚手のコートや上着だけでは、寒さをしのげない日々です。

1121日におこなわれました「芸術表象論特講」15回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、イギリス在住の韓国人アーティストのユ・ウンジュ氏でした。





ウンジュ氏は、茨城県守谷市にある「ARCUS ProjectResidency for Artists Experiments for Locals Moriya, Ibaraki)」(以下、アーカスプロジェクト)の今年度のレジデンスプログラム招聘作家です。

アーカスプロジェクトは、茨城県が主催となり1994年から国際的に活動しているアーティストが滞在して制作する「アーティスト・イン・レジデンス」と、地域の人々が主体となっておこなう「ワークショッププログラム」の活動をおこなっています。
「アーティスト・イン・レジデンス」では、90日間の滞在制作とそのリサーチをサポートし、地元の人とも交流を重ねるそうです。今回、ウンジュ氏と共にアーカスプロジェクトのコーディネーターである石井瑞穂氏も来校されました。


▲石井氏と通訳の池田氏(ウンジュ氏は英語のため)


レクチャーでは、アーカスプロジェクトでの制作について、作品のプロセスを細かく話してくださいました。守谷市に在住している主婦のみなさんにワークショップとして参加してもらい、そこから出てきたものをウンジュ氏が映像作品にしてインスタレーションとして展示をおこなったそうです。

他に、過去の作品についても紹介してくださいました。

主にアニメーションの手法を用いた映像作品を作っていました。映像作品は、ウンジュ氏の個人的なものからではなく、ワークショップをおこない、そこから抽出されてきた参加者の個人的な部分(ストーリー)を使用しているようです。

もともと、韓国では彫刻を専攻されていたそうですが、典型的なアートではないものを学びたいという理由から、イギリスへ留学されました。そこでは、自分が考えたプロジェクトをずっとやっていくというプログラムで、理論面を学んだりするのではなく、自分がやりたいことをすることができたそうです。ここでの経験から、今ではプロジェクトの提案書がすんなり書けるようになったとのことです。

積極的に学生からの質問を受けており、学生たちも少しは将来について考えるきっかけになってくれたらいいなと思います。

授業後に話したりない学生が、ウンジュ氏に質問をしに行くなどしていました。

余談ではありますが、ウンジュ氏と石井氏は、女子美の学食で昼食をとられたり、女子美アートミュージアム(JAM)で開催されている展示を見学したりもしました。

ウンジュ氏は、近々イギリスへ帰国されるそうです。今後の作品も楽しみです。

アーカスプロジェクトの詳しい情報は、以下のホームページで確認してみてください。少し遠いですが、とても魅力的な場所です。


ARCUS ProjectResidency for Artists Experiments for Locals Moriya, Ibaraki



それでは。

2012年11月18日日曜日

芸術表象論特講#14

こんにちは、寒さがより強まってきました。

11月14日におこなわれました、「芸術表象特講」14回目のレクチャーについて、少しご報告したいと思います。

今回のゲストは、アーティストの山本高之氏でした。



山本氏の作品は主に、子どもたちとのワークショップをおこない、その成果をビデオ作品としています。

今年制作された作品から、これまでの作品も何点か見せてくださいました。

■ブラックホール
女の子と男の子が、その専門の大学教授からブラックホールとは何かという説明を受けている映像。女の子は、わからなくても相槌をしたりと気を使っているようにも見えます。


■どうぶつたちのいっしゅうかん(A WEEK OF THE ANIMALS)
動物園にいる動物たちは、労働しているだろうという発想から、子どもたちにそれぞれの動物の一週間を考えてもらい、ロシア民謡「一週間」にのせて、その動物の前で歌ってもらいます。

■どんなじごくへいくのかな(NEW HELL, WHAT KIND OF HELL WILL WE GO TO)
地獄絵図《本熊野歓心十界図》を見せて、それぞれが新しい地獄を考えるワークショップ。絵ではなく、立体的に作ります。

■きみのみらいをおしえます(TELLING YOUR FUTURE)
子どもたちに新しい占いを考えてもらい、実際にセットを作りお客さんを占います。

他にもいくつか見せていただきました。山本氏の作品は、下記のサイトから見ることができます。

実は、山本氏は小学校の教員を5年ほどしていた経験があります。

教員をしながら制作をしていたこともあり、そのとき出来た《まもるくん(PROTECTIVE SUIT MAMORU-KUN)》(登下校時に子どもを審者から守るための拘束具。まるでロボットのようないでたちですが、守られているのは上半身だけ)というのもありました。

子どもたちの姿に、学生たちは大笑いでした。

《きみのみらいをおしえます》は日本以外でもおこなっており、アメリカの子どもは踊り出したりと、国によっての違いが見られて、また面白みがありました。


▲学生の質問を受ける山本氏

子どもたちが考えていることは「鋭いものを危なく使った人が行く地獄」や「友達の消しゴムをふざけて折った」とか、結構具体的に提示するので、それが余計に面白く感じてしまいます。
しかし、彼らが映像のなかで繰り広げる些細な行動は、私たちにも経験があるはずなのに、まったく別のもので関係がない存在に思えてしまい、はっとすることがありました。


今後の山本氏の作品も楽しみです。

Takayuki Yamamoto
http://takayukiyamamoto.com
*こちらのサイトで、作品が見られます。


それでは。